九州大学病院のがん診療

口腔がん

診断

口腔がんの「臨床的診断」のためには病歴の聴取(問診)や視診・触診により病状が良性か悪性かの判断、進行状況の把握が行われます。つづいて腫瘍の局所での拡がりやリンパ節転移、遠隔転移、重複がの把握のための「画像診断」が行われ、診断の確定や手術切除物の検索のために「病理組織学的診断」が行われます。画像診断と病理組織学的診断についてもう少し詳しく述べます。

A.画像診断

口腔の特徴として、舌や頬粘膜や口底のように軟らかい部分だけのところと、口蓋や上下の歯肉のように骨(顎骨)の裏打ちがあるところがあります。このため原発巣については通常のエックス線写真に加えてCTやMRによってがんの拡がりや奥行きや深さを評価する必要があります。

頸部リンパ節の評価には、CTとUS(超音波エコー)を組み合わせることにより、現在では90%以上の正確さでリンパ節転移の有無を非侵襲的に診断することが可能となっています。さらに舌がんなどにおいては、がんの深さ(厚み)の評価にも口内法のUS検査を用いています。
また、全身の状態を把握した上で口腔がんの治療に臨むべき、という立場から以下のような画像検査も併せて行います。
・胸部エックス線、胸部CT:肺転移や肺病変の有無を検索する
PET:遠隔臓器への転移や重複がんの診断を行う

 このようにして、がんのTNM分類と病期(Stage)を決定することができます。その上で、口腔がんの治療だけに専念すべきか、他臓器の治療の必要性を他の診療科と連携をはかるべきかの判断を行っています。
さらに、口〜食道〜胃〜腸は「ひと続きの消化管」であるため、口腔と食道、あるいは口腔と胃に同時にがんができていることがあります。そのため、なるべく早い時期に上部消化管の内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)を受けていただいています。

B.病理組織学的診断

病理組織学的診断には「細胞診」、「生検」、「手術切除物の病理組織学的診断」、「手術中の迅速病理検査」があります。

ⅰ)細胞診は口腔がんの多くが表層に露出しているために比較的行い易い方法です。麻酔なし、または表面麻酔程度で行うことができ、通常は細胞の異型の程度により5段階(クラスⅠ〜Ⅴ)で評価されますが、検査者(細胞検査士)と採取細胞の条件によっては病理組織学的診断が可能な場合があります。一方、細胞採取者の技量と採取部位によってはより低くクラス分けされることもあります。

ⅱ)生検は局所麻酔を施してから病変の一部を切除する方法(「部分切除生検」)が一般的で、病理組織学的診断が得られ、がんの浸潤深さ、浸潤様式、脈管浸潤、リンパ管浸潤、神経浸潤などを見ることにより悪性の度合いや周囲組織への拡がりを把握することが可能です。生検の特殊な場合として、病変が小さい場合には病変全部を切除した上で病理組織学的診断を行う「全切除生検」が行われることもあります。口腔がんの多くは直視・直達が可能であるため生検も比較的容易な方法と言えます。やや深在性の病変や皮膚側からアプローチした方がよい場合には、超音波エコーガイド下に注射針を用いて行う「針生検」もあります。

ⅲ)術中迅速病理検査では、手術中における確定診断や切除断端の評価が可能です。

ⅳ)手術切除物の検査では、切除物を端から端までつぶさに検索を行うことにより切除断端の評価や術前治療を行った場合の治療効果の判定を行うことが可能となります。

用語解説
重複がん : 原発と思われる悪性腫瘍が複数存在すること
CT : コンピュータ断層法。身体の横断断層を撮影する特殊なX線装置
US : 超音波検査。超音波を当て、反射する反射波を画像処理し臓器の状態を調べる検査
PET : がん細胞だけに集積する検査薬を体内に取り込み専用の装置で体を撮影する画像診断法
TNM分類 : 国際対がん連合が採用している悪性腫瘍の病気分類
脈管浸潤 : 血管やリンパ管の中にがん細胞が侵入すること
神経浸潤 : 癌細胞が神経に侵入すること
針生検 : 針を用いて肝臓などの体内臓器を穿刺して組織を採取する方法