九州大学病院のがん診療

口腔がん

外科的治療

口腔がんの外科的切除を考える際には、咀嚼、摂食嚥下、発音などの機能面と顎顔面領域の整容面など患者の術後QOLなども考慮して検討することになります。

がんの大きさが比較的小さく頸部のリンパ節に転移がない初期のがんの場合は、口内法による手術療法を検討します。これはがんの周囲に余裕を付けて(これを「安全域」とか「セーフティーマージン」と呼びます)切除する治療法です。通常は安全域として1cmつけて切除します。上下の歯肉がんや口蓋がんの場合には、粘膜の下にはすぐに骨があるために骨を含めて切除することになります。初期のがんの場合は、手術後の機能障害(摂食嚥下、発音や会話)については、日常生活をおくるうえで、多くの場合ほとんど問題ありません。

 がんが大きい場合(3〜4㎝以上)や頸部リンパ節転移を来たしている場合は、治療的にあるいは再建のために、手術の際に頸部リンパ節群の切除(これを「頸部郭清術」と呼びます)を併せて行います。そして手術後の顔貌の変形、摂食嚥下障害、発音や会話の障害をできるだけ最小限にとどめるために血管吻合術(マイクロサージェリー)を用いた遊離皮弁術などの再建術を形成外科の医師とともに行っています。特に、下顎歯肉癌では広範な顎骨切除が必要なことがあり、術後の咬合のずれや歯の損失が生じるため、なるべく術前の噛み合わせの再現と補綴治療(義歯やインプラントなど)により、咬合機能の回復を図っています。

写真には、下顎歯肉がんに対して、下顎区域切除(顎の切除)を行い、下肢の腓骨を使って顎の骨の再建を行い、噛み合わせを元の位置に戻しています。

手術後は、できるだけ早期にかつ安全に口から食べることを再開できるように目指しています。さらには会話機能の回復を図るための摂食嚥下ならびに口腔機能のリハビリテーションを多職種チームによって系統的に行っています。義歯や顎義歯、舌接触補助床(PAP)の作製を院内の補綴科や全身管理歯科と連携して行い、口腔機能の回復を目指しています。
用語解説
QOL : 「生活の質」または「生命の質」。満足のいく生活を送ることができているかを評価する概念
マイクロサージェリー : 手術用顕微鏡と微小手術器具とを用いて行う手術
皮弁 : 血流のある皮膚・皮下組織や深部組織のこと