九州大学病院のがん診療

腎盂尿管がん

院内がん登録情報

2018年から2022年に九州大学病院に来院され腎盂・尿管がんの診断を受けられた患者さんは129例であり、これらの患者さんに対して九州大学病院で行われた治療の内容について説明します。

腎盂・尿管がんは、UICCあるいは本邦の腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約により、ステージ0a、0is、Ⅰ〜Ⅳの臨床病期(病気の進行度)に分類されています。ステージ0〜Ⅱは腎盂・尿管にとどまるがんですが、Ⅲになると腎盂・尿管の外の組織まで、Ⅳになると隣接臓器や腎周囲脂肪までがんの根が伸びていったものをさします。

図1は、九州大学病院にて腎盂・尿管がんと診断された患者さんの臨床病期ごとにその割合を示したものです。ステージ0a(乳頭状の形をするが上皮下までがんが広がっていないもの)が11例と全体の8.5%を占め、ステージ0is(上皮内がん)が4例(3.1%)、ステージⅠ(上皮下までがんが広がっているもの)が25例(27.1%)、ステージⅡ(筋肉の層までがんが広がっているが周囲まではがんが広がっていないもの)が29例(22.5%)で、これらの腎盂・尿管壁までにとどまるがんが61.2%と全体の2/3程度となっています。がんが筋層をこえて周囲の脂肪組織まで進展するステージⅢは18例(14%)にみられました。これらステージ0〜Ⅲの症例は、手術療法により根治が期待できる進行度であり、年齢や合併症などにより手術が可能であれば前述の腎尿管全摘除術を行っています。また、合併症があり腎尿管全摘除術が難しい症例やステージが低く腫瘍の個数が少ない場合には、経尿道的に治療することもあります。いずれにしても、ステージ0〜Ⅲの症例ではその90.7%の症例において腎尿管全摘除術あるいは経尿道的手術などの外科的治療が行われています。ステージ0isやⅠなどの早期で薬物療法が行われているのは、主に上皮内がんと診断されたためBCG腔内注入療法が行われているためです。一方で、32例(24.8%)では周囲臓器へがんが広がっている、あるいはリンパ節転移、遠隔転移が認められステージⅣと診断されています。このような場合には、全身化学療法免疫チェックポイント阻害薬をはじめとする薬物療法、局所のがんの制御あるいは転移巣に対する緩和目的の放射線治療が中心となり、ステージⅣの多くで薬物療法あるいは放射線療法が行われています。また、化学療法が奏効した場合や症状緩和を目的とする場合などに手術療法が行われることがあります。しかし、残念ながらステージⅣと診断された場合の生存率は2年で0.35程度であり、予後不良な状態といえます。

このように、腎盂・尿管がんは比較的まれな病気ですが、進行した浸潤がんで発見される頻度も高いがんです。原則として手術可能であれば標準治療である腎尿管全摘除術をお勧めしながら、患者さんの全身状態やご希望を考慮して治療を行っています。

用語解説

病期 : 疾病の経過をその特徴によって区分した時期
BCG : 結核予防用のワクチン
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
免疫チェックポイント阻害薬 : 免疫療法のひとつ。がん細胞により抑制されていた免疫機能を活性化させる

腎盂・尿管 2018-2022年症例のうち癌腫のみ(悪性リンパ腫、肉腫等を除く)治療前・UICCステージ

UICCについて集計を行った。
※症例20:自施設で診断され、自施設で初回治療を開始(経過観察も含む)
 症例21:自施設で診断され、自施設で初回治療を継続(経過観察も含む)
 症例30:他施設で診断され、自施設で初回治療を開始(経過観察も含む)
 症例31:他施設で診断され、自施設で初回治療を継続(経過観察も含む)
※図4の生存曲線は全生存率として集計(がん以外の死因も含む)

図1 ステージ別症例数(症例20、21、30、31)

図2 ステージ別発見経緯(症例20、21、30、31)

図3 ステージ別治療法(症例20、21、30、31)

図4 Kaplan-Meier生存曲線(腎盂尿管)