九州大学病院のがん診療

子宮がん

内科的治療

子宮がんは主に、子宮頸部にできる子宮頸がんと体部にできる子宮体がんの2つに分けられ、それぞれが別の悪性腫瘍として治療されています。卵巣がんに比べて化学療法の効果は低いと考えられており、手術療法以外では放射線治療などが主として行われていました。しかし最近では、様々な新しい抗がん剤が開発され、病状に応じて、化学療法、分子標的治療薬、免疫治療薬などを用いた治療が積極的に行われています。

子宮頸がんに対する化学療法

子宮頸がんに対する治療は、卵巣がんおよび子宮体がんと異なり、化学療法はいまだ一般的ではなく、放射線療法が主体です。しかし、広汎子宮全摘出術後に骨盤への追加照射をすると、リンパ浮腫、腸閉塞などの重篤な合併症を引き起こすことがあり、化学療法の利点が近年注目されています。近年、プラチナ製剤を含む術後化学療法により、放射線療法と同等の治療成績が得られる可能性があることが報告されており、当科でも術後補助療法としてパクリタキセル+カルボプラチン併用療法(TC療法)などを行うことがあります。

当科では若年の浸潤子宮頸がん症例に対して、妊孕性温存を目的とした子宮頸部摘出術(トラケレクトミー)を行っていますが、術後に追加治療を要する場合、卵巣機能を温存するために、放射線療法ではなく、原則として化学療法を選択しています。
また、進行・再発子宮頸がんに対しては、病状や検査結果に応じて、これらの化学療法に血管内皮細胞増殖因子(VEGF)阻害薬であるベバシズマブを併用することがあります。近年、様々な癌種において、免疫チェックポイント阻害剤の有効性が報告されていますが、進行・再発子宮頸癌においても、化学療法、ベバシズマブとペムブロリズマブの併用療法、セミプリマブの単剤療法などが行われています。

子宮体がんに対する化学療法

子宮体がんは比較的早期に発見されることが多く、手術療法のみで根治できる例も多い疾患ですが、Ⅲ、Ⅳ期の進行例では術後の追加療法が必要となる場合もあります。歴史的に欧米諸国では術後療法として放射線療法が行われてきた経緯があり、放射線療法が選択されることも多かったのですが、日本では多くの施設で化学療法が行われるようになってきました。化学療法としてはアドリアマイシンとシスプラチンの有用性が報告され、アドリアマイシン+シスプラチン併用療法(AP療法)が行われてきました。その後、パクリタキセル+カルボプラチン併用療法(TC療法)がAP療法に対して治療効果が劣らず、毒性もAP療法に比べ軽度であることが知られるようになり、最近ではTC療法が選択されることも多くなりました。
進行・再発子宮体がんに対する化学療法としては、TC療法やAP療法が選択されることが多いのですが、治療経過や検査結果によっては、分子標的治療薬であるレンバチニブと免疫チェックポイント阻害剤であるペムブロリズマブの併用療法やペムブロリズマブ単剤療法が行われることもあります。
また、若年者の子宮体がんで妊孕性温存の希望がある方には、分化が良い組織型で、早期である場合に限り、高用量黄体ホルモン療法を行っています。治療が奏功した場合には、子宮を摘出する必要がなく、治療後に妊娠、出産された方もいます。

用語解説

化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
分子標的治療薬 : 癌に関与する遺伝子や遺伝子産物を標的とした新しい薬剤による治療法
妊孕性温存 : 妊娠する力を残すこと
免疫チェックポイント阻害剤 : 免疫療法のひとつ。がん細胞により抑制されていた免疫機能を活性化させる