九州大学病院のがん診療

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造血器悪性腫瘍

造血細胞移植(hematopoietic cell transplantation:HCT)

1.造血細胞移植とは?

白血病や悪性リンパ腫などの血液悪性腫瘍は、抗がん剤治療や放射線治療が効きやすい病気です。しかし、これらの治療法だけでは、治癒を得られない患者さんが少なからずおられます。そのような、難治性の血液悪性腫瘍や、骨髄異形成症候群や再生不良性貧血のような造血不全症の治癒を目指す治療法として、「造血細胞移植」が行われます。
移植する造血細胞の中に、患者さんの体内で血液細胞(白血球、赤血球、血小板)を生涯にわたりつくり続けることのできる「造血幹細胞」が含まれている必要があります。この造血幹細胞は、通常は「骨髄」の中にありますが、抗がん剤の治療後や、G-CSFとよばれる白血球を増やす薬を注射された後には、全身を流れる血液の中にも増えてきます(末梢血幹細胞)。また、赤ちゃんと母親をつなぐ、へその緒の中にあるさい帯血にも含まれています(さい帯血幹細胞)。このような造血幹細胞が移植され、患者さんの骨髄に生着することで、生涯にわたり正常な血液細胞をつくり続けることができます。

2.造血細胞移植にはどのような種類があるか?

移植前処置とよばれる、大量の抗がん剤投与や、全身への放射線治療を行い、患者さんの腫瘍細胞や免疫担当細胞を減少させたのちに、造血細胞を点滴投与することで移植を行います。患者さん自身の造血細胞を用いる「自家移植」と、他人(ドナー)の造血細胞を用いる「同種移植」に分けられます。自家移植では、化学療法の途中で患者さん自身の造血細胞を採取し、凍結・保存しておき、前処置後に移植します。一方、同種移植では、通常、HLAとよばれる白血球の型が一致したドナー(血縁者や骨髄バンク、さい帯血バンクなど)から採取した造血細胞を移植します。同種移植は、患者さんの体内に生着したドナー細胞が、腫瘍細胞を免疫学的に攻撃することで、再発を防ぐ効果(GVL効果)があるとされ、自家移植より高い治療効果が期待できます。また、移植する造血細胞の種類により、骨髄移植(BMT)、末梢血幹細胞移植(PBSCT)、さい帯血移植(CBT)に分けることができます。自家移植では、おもに末梢血幹細胞が、同種移植では、骨髄、末梢血幹細胞、さい帯血が用いられます。どの種類の造血細胞移植を行うかは、病気の種類や病状、患者さんの状態や希望、そして、適切なドナーの有無を考慮して決めます。

3.造血細胞移植の合併症は?

高い治療効果を期待できる一方で、前処置による臓器の障害、免疫能低下による感染症、移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)、退院後の生活の質の低下、二次がんなど、移植前処置の開始から移植後長期にわたり、さまざまな合併症が起こることがあります。適切な診断や治療により多くの場合はコントロールできますが、治療に難渋することもあります。

⑴ 前処置関連毒性:大量の抗がん剤や放射線を用いるため、嘔気・粘膜障害などの消化器毒性や、肝臓、腎臓、心臓の毒性など、通常の治療より強い障害がおこります。多くの場合は経過とともに回復していきますが、時に重篤になることもあります。また、生殖機能の低下による不妊や、新たながんの発症などの晩期の合併症も起こることがあります。

⑵ 感染症:造血機能の低下や、免疫抑制剤の使用により、細菌や真菌(かび)、ウイルスによる感染症を生じやすくなります。特に移植後3〜4週間の白血球数が極めて低い期間は、感染症のリスクが高く、重篤となることがあります。白血球の回復後も免疫機能は十分ではなく、長期間にわたり感染症の注意が必要です。

⑶ 移植片対宿主病:同種移植を受けた患者さんに起こります。患者さんの体をドナーの白血球が攻撃する状態です。免疫抑制剤による予防が行われますが、軽症のものを含めるとほとんどの患者さんにおこります。移植後100日以内に発症する急性GVHDでは、皮膚、肝臓、胃腸などが障害され、皮疹、黄疸、吐き気、下痢などの症状が現れます。それ以降に発症する慢性GVHDでは、急性型で障害される臓器以外に、目、口、肺、関節、筋肉など多くの臓器や組織が標的となります。ドライアイや結膜炎、口内炎や唾液の量の低下、皮膚や関節の硬化、咳や息切れ、呼吸不全など、生活の質の低下につながります。

⑷ 生着不全:移植したドナーの細胞が血液細胞を造ることができなくなり、再度の移植治療が必要となることがあります。

⑸ 病気の再発:造血細胞移植を行っても、残念ながら病気が再発してしまうことがあります。

4.九州大学病院の特徴は?

⑴ 病棟全体の空気清浄度が高く、感染症対策を強化した、国内でも最大規模の「無菌治療部」で造血細胞移植を行っています。

⑵ 併存疾患をかかえ合併症のリスクが高い患者さんにも、各診療科・診療部門と協力し安全に治療が行えるような態勢を整え、他院からの紹介患者さんも積極的に受け入れています。

⑶ 経験豊富な医師・看護師を中心に、移植コーディネーター、歯科医師・歯科衛生士、薬剤師、栄養管理士、理学療法士・作業療法士、臨床心理士、社会福祉士などと協力の上で移植前から退院までを治療過程をチームで担当します。退院後も、医師と専門看護師により、日常生活や社会生活にスムーズに復帰できるよう、患者さんとそのご家族をサポートします。

⑷ 身体や臓器の機能が弱い患者さんには、前処置の強度を軽減したミニ移植、ご家族にHLAが一致したドナーがいない患者さんには、骨髄バンクドナーからの移植や、さい帯血バンクドナーからの移植を行ってきました。近年、免疫抑制治療を強くすることで、HLAが完全に一致していない血縁者ドナーからの移植治療が安全に行えるようになり、いまや、ドナーがいないため移植を断念するケースはほとんど無くなりました。患者さんの病状やご希望、ドナー細胞が得られるタイミングなどを考慮し、個々の患者さんに最適な移植治療法を選択しています。

⑸ 新規薬剤や、CAR-T細胞療法をはじめとする免疫細胞療法などを積極的に導入し、安全で治療効果の高い移植治療の確立を目指しています。また、腫瘍細胞の遺伝子検査、造血幹細胞や移植免疫の研究で得られた結果を一日でも早く患者さんの治療に活かせるよう、世界に向けて発信しています。

⑹ 2021年までの造血細胞移植は、のべ1,500症例を超え、国内でも有数の治療経験と実績を持つ移植チームです。厚生労働省より造血幹細胞移植推進事業の「九州ブロック拠点病院」に認定され、人材育成や診療支援等を行い、九州地区の造血細胞移植医療体制の充実・均てん化にも努めています。

用語解説
悪性リンパ腫 : リンパ系組織から発生する悪性腫瘍