九州大学病院のがん診療

小児がん

外科的治療

小児がんにおける外科治療は、集学的治療化学療法、外科療法、放射線療法)の中の一部であるという認識が大事です。すなわち、小児がんの種類、悪性度に応じて、外科治療の役割を考えることが大切になってきます。小児がんの外科治療のカテゴリーは、⑴ 診断時腫瘍切除 ⑵ 腫瘍生検 ⑶ second look operationによる根治手術の3種類に大きく分けられます。

1)診断時腫瘍切除

腫瘍の進行度が比較的早期であり、初期診断時に画像診断にて手術による腫瘍の切除が可能と判断されたときに行われます。この場合、外科手術は、診断及び治療の主体であり、腫瘍の悪性度によっては、診断時腫瘍切除を行うことによって手術後の化学療法や放射線療法を行うことなく、治療を完了することができますが、一方では、たとえ、手術によって腫瘍を目に見える範囲で全部取り去ることができても、切除した腫瘍の悪性度が高い場合は手術後に化学療法や放射線療法が必要となってくる場合もあります。

2)腫瘍生検

主に初期診断時に手術による腫瘍の切除が困難である場合に診断確定及び腫瘍の悪性度を判定するために行われる手術で、開腹あるいは開胸にて腫瘍の一部を切除してきます。最近では、当施設においては、針生検や腹腔鏡/胸腔鏡による患者さんのQOLを重視した低侵襲的な腫瘍生検も適応に応じて積極的に取り組んでいます。特に小児腫瘍に対して針生検で診断を行っている施設は全国でも少なく、低侵襲に診断を行うことができます。小児がんは、同じ腫瘍でも症例ごとに腫瘍の悪性度が異なることが特徴なので、腫瘍生検は患者さんそれぞれの病態に適したオーダーメード型の治療を行う上で非常に大切な外科治療です。

3)second look operationによる根治手術

前記のように初期診断時に腫瘍の切除が困難である場合、あるいは、最初から転移が存在し、初期診断時腫瘍切除による根治が望めない場合には、まず腫瘍生検を施行し、腫瘍の確定診断及び悪性度判定を行ってそれぞれの腫瘍に適した化学療法を行います。小児がんは、化学療法や放射線療法が成人のがんに比較して奏効することが多いので、化学療法で腫瘍が縮小した後に、外科的に腫瘍を完全切除することを目的に行う2回目の手術のことをsecond look operationによる根治手術とよんでいます。

当科では近年の医療技術の発達により、外科治療にも多くの先進的技術を導入しております。上述の低侵襲な内視鏡手術はもちろんですが、術前画像と術中所見を一致させながら行うナビゲーション手術、また肝芽腫などの場合には通常の肉眼では確認できない病巣をICG試薬を用いて術中に蛍光発光させ、場所の同定と取り残しのない手術を行っています。また症例によっては3Dプリンターを用いて術前に腫瘍の模型の作成を行っており、手術中の腫瘍と結果との位置関係の確認や、ご家族への手術の説明などに大変有用です。
また患者さんの機能的なQOLを損なわない外科手術や傷の目立たない手術などの整容性を考慮した外科手術、さらに妊孕性などにも考慮した外科手術の工夫にも取り組んでいます。

外科治療は小児がん関連の他科との連携が大切であり、外科手術を行う小児外科を中心とした小児がん関連外科以外に、小児科、放射線科、病理診断部門、また看護師、薬剤師、CLS、理学療法士、臨床心理士などパラメディカルと密接に連携して、小児がん患者さん全員の治療方針を検討し、それぞれに適した外科治療の方法及び時期を決定しています。

用語解説

集学的治療 : 外科的治療、化学療法、放射線療法などの複数の治療方法を組み合わせて行うがんの治療法
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
second look operation : 手術の後に化学療法を施行し、一定期間の後に再開腹して腹腔を精査するために施行する手術
QOL : 「生活の質」または「生命の質」。満足のいく生活を送ることができているかを評価する概念
低侵襲 : 身体にかかる負担が少ない