九州大学病院のがん診療

小児がん

院内がん登録情報

小児がんには、白血病に代表される血液腫瘍とさまざまな臓器に腫瘤として発生する固形腫瘍があります。実際に小児がんの種類を細かくわけると、数万人から数十万人に1人のまれな発生のものばかりで、多種多様な小児がん全てを合わせて15歳未満の小児人口1万人あたり約1.1人といわれています。小児期の死亡原因としては重要で、0歳以上15歳未満の全死亡の約10%を占め、とくに5〜9歳では死亡原因の約1/4を占めています。また若年成人(Adolescent and Young Adult,AYA世代)といわれる15〜39歳のなかでも15〜18歳については、小児に発症しやすい白血病、リンパ腫、骨軟部腫瘍、脳腫瘍といったいわゆる希少がんが多いとされています。希少がん故に情報が少ないため、まずは実態把握が重要であると考えられています。

九州大学病院がんセンターにおいては法制化された「院内がん登録」制度に基づき小児がんにおいても、発症年齢・性別・がんの種類・進行度合い・治療の種類とその効果などの把握と公表を行っています。院内のがん患者さんに占める小児(18歳以下)の患者さんの割合は5%未満であり、成人に比べ非常に少人数であるのが現状です。
また小児がんの治療や研究に携わる医師や研究者の集団として「日本小児血液・がん学会」という組織があり、この学会を通して治療法や研究の情報や意見を交換し、より多くの患者さんを救うべく努力しています。日本小児血液・がん学会では、小児がんを取り扱うすべての学会(日本血液学会、日本小児外科学会、脳神経外科学会、眼科学会、整形外科学会など)の協力を得て全数把握登録事業を行っています。登録される小児がんは、小児における血液腫瘍と固形腫瘍であり、疾患名・性別・年齢・発生部位などをデータベース上に入力します。しかし、個人情報保護の観点から患者さんの名前やカルテ番号などの個人情報は一切登録しません。小児がんの患者さんが年間何人くらいいるのか?男女の割合はどうなのか?発症しやすい年齢はあるのか?地域による違いはあるのか?などの統計を出します。さらに小児がんの研究グループとして2014年にJCCG(日本小児がん研究グループ)が発足していますが、そこで行われている固形腫瘍観察研究で行われている登録事業との連携により、悉皆性の高いデータベースが構築されております。法制化された院内がん登録と研究グループや学会を中心とした登録事業などのこれらの統計情報は、医学研究のベースになりますし、また、保健医療政策の決定のための貴重な資料になります。

次に、2018年から2022年における九州大学病院小児医療センターにおける小児がん治療の現状を示します。症例の内訳について図1に示します。白血病、悪性リンパ腫などの血液腫瘍の患者さんが最も多く全体の約43%(白血病33%、悪性リンパ腫10%)でした。次いで脳腫瘍が14%、固形腫瘍の神経芽腫の患者さんが7%を占めていました。また診断時年齢については5歳以下の症例が約51%であった一方、15歳以上の症例は6%でした。血液腫瘍性疾患、固形腫瘍の小児がんの診断および治療は、単一施設としては全国的にみてもトップクラスの患者数です。近年、化学療法・外科的手術・放射線療法・造血幹細胞移植などの治療の進歩により治療成績も向上しています。

用語解説

悉皆 : 残らず、すべて
悪性リンパ腫 : リンパ系組織から発生する悪性腫瘍。
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法

小児がん 2018-2022年症例のうち小児科・小児外科症例

※症例20:自施設で診断され、自施設で初回治療を開始(経過観察も含む)
 症例21:自施設で診断され、自施設で初回治療を継続(経過観察も含む)
 症例30:他施設で診断され、自施設で初回治療を開始(経過観察も含む)
 症例31:他施設で診断され、自施設で初回治療を継続(経過観察も含む)

図1 小児がん組織型(症例20、21、30、31)

図2 初発年齢分布(症例20、21、30、31)