九州大学病院のがん診療

骨軟部腫瘍

はじめに

九州大学病院では、整形外科、腫瘍内科、放射線科、小児科、小児外科、外科、皮膚科、泌尿器科などが協力し、骨や軟部組織に発生した腫瘍(骨軟部腫瘍)の治療を行っています。外科的治療、内科的治療、放射線治療を組み合わせた集学的治療により、悪性骨軟部腫瘍患者さんの生命予後を改善し、整容性と機能性に優れた患肢温存治療の実践に大きな力を入れています。骨軟部腫瘍の診療は、原則として、それぞれの診療科領域における専門医が担当します。

整形外科で診療を行う骨軟部腫瘍の患者数は年々増加しており、最近の手術件数は250〜300件で推移し、国内有数の骨軟部腫瘍治療施設となっています。
以下に診療内容について説明します。

悪性軟部腫瘍

脂肪肉腫、未分化多形肉腫、平滑筋肉腫、滑膜肉腫などが代表的な腫瘍です。外来で特殊な針を用いて、もしくは手術室で組織を一部採取して診断をつけます(これらを生検といいます)。治療は外科的治療が主体で、ほとんどの症例で切断することなく、患肢温存手術を実施しています。粘液型脂肪肉腫などで深部に発生して神経や血管と接している場合には、手術前に放射線療法を併用することで神経および血管を温存する手術を行い、良好な成績を収めています。また、悪性の程度が高い場合には、抗がん剤を用いた化学療法を手術に併用して行っています。悪性骨軟部腫瘍は比較的稀であるため、治療成績改善のためには、全国規模の臨床研究が必要です。日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)や骨軟部肉腫治療研究会(JMOG)といった研究グループに参加し、多くの多施設共同研究を実施しています。

悪性骨腫瘍

骨肉腫軟骨肉腫ユーイング肉腫などが主な腫瘍です。骨腫瘍の場合は、ほとんどの場合、手術室で組織を採取して診断を確定します。悪性度が高い骨肉腫やユーイング肉腫では、手術治療に加え、術前および術後の化学療法が必須の治療となります。骨肉腫に対しては、過去に行われた多施設共同研究(JCOG0905)に基づくプロトコール治療を行っており、手術や化学療法を組み合わせた集学的治療を行っています。骨肉腫に次いで頻度が高いユーイング肉腫に対しては、VDC+IEレジメンによる治療を行っています。手術に関しては、骨腫瘍においてもほとんどの患者さんで患肢温存手術を実施しています。悪性骨腫瘍の広範切除後には、大きな骨欠損が生じることが問題となりますが、腫瘍用人工関節、人工骨あるいはパスツール処理骨移植血管柄付腓骨移植等によって再建を行い、良好な術後患肢機能の獲得をはかっています。軟部組織の欠損に対しても、形成外科協力のもと、各種の皮弁形成術による再建を行っています。

月に一度、整形外科、腫瘍内科、放射線科、小児科、病理部などが合同でカンファレンス(骨軟部腫瘍・希少がん部会)を開催し、質の高い集学的治療が提供できる体制を整えています。

用語解説

集学的治療 : 外科的治療、化学療法、放射線療法などの複数の治療方法を組み合わせて行うがんの治療法
脂肪肉腫 : 脂肪細胞から発生する肉腫
滑膜肉腫 : 発生頻度は比較的まれな腫瘍で下肢、とくに大腿、膝周辺の骨や軟部組織に好発する腫瘍
患肢温存手術 : 四肢発生の悪性骨・軟部腫瘍に対して行われる手術法の一つ。従来の切断・離断術とは異なり、出来るだけ切除する範囲を小さくし、体の機能を残す術式
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
肉腫 : 悪性腫瘍のうち、線維、血管、骨、軟骨、筋肉、造血組織などから発生するもの
骨肉腫 : 腫瘍細胞が直接、骨を形成する能力を有する悪性腫瘍で、原発性骨悪性腫瘍のうち最も発生頻度の高い腫瘍である
軟骨肉腫 : 骨肉腫に次いで多く、軟骨を形成する悪性腫瘍
ユーイング肉腫 : 骨や軟部組織から発生する腫瘍
パスツール処理骨移植 : 腫瘍を含めて広範に切除した腫瘍骨から腫瘍を掻き出し、周囲の筋肉などを除去した後に、骨に残った腫瘍細胞の死滅を目的に処理を行い、その骨を再建に用いる方法
血管柄付腓骨移植 : 腓骨と周りの血管をつけたまま採取し,骨欠損部に移植する方法
皮弁 : 血流のある皮膚・皮下組織や深部組織のこと