九州大学病院のがん診療

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造血器悪性腫瘍

薬物治療(多発性骨髄腫)

多発性骨髄腫について

多発性骨髄腫は抗体を作る機能を有する形質細胞が腫瘍化した病気で、M蛋白と呼ばれる異常蛋白が作られ、血液を作る場所である骨髄で、腫瘍化した形質細胞が増えることが特徴です。初期は無症状ですが、進行すると骨痛・骨折や、貧血、腎機能障害、高カルシウム血症などが見られるようになります。
このような症状を伴う「症候性骨髄腫」になった際に、以下のような治療が開始されるのが一般的です。

65〜70歳以下で臓器機能が保たれている患者さん

治療効果の高い新規薬剤(ボルテゾミブ、レナリドマイドなど)をステロイドホルモンとともに使用する解導入療法を行い、続けて大量メルファラン療法+自家造血幹細胞移植→地固め療法→維持療法と継続することが、病気をコントロールするための最良の方法と考えられています。これらの治療により、以前は根治を目指すことが非常に難しいと言われていた多発性骨髄腫でも、一部の人には腫瘍が全く検出されない状態がもたらされます。九州大学病院では臨床試験を組んで、このようなセット治療の有効性・安全性を確認しています。最新の試験では、骨髄腫細胞の表面に出ているCD38という抗原を標的とする新しい抗体製剤(ダラツムマブ)を治療の最初から使用する方法を試そうとしています。再発あるいは難治性の場合でも、下記に示すように、近年新規薬剤・抗体製剤が次々に使用できるようになり、様々な組み合わせを試しながら治療を進めていきます。それでも効果が不十分な場合には、同種造血幹細胞移植(他人からの移植)に加えて、多発性骨髄腫の細胞に高く発現することが知られるBCMAという分子をターゲットにしたキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法が行えるようになり、当院でも既に数例が施行されています。

高齢の患者さんや臓器障害のある患者さん

強力な治療が難しい患者さんの場合には、副作用の少ない方法で病気の進行を遅らせることを目標とします。長らくMP療法(メルファラン、プレドニン)またはCP療法(シクロフォスファミド、プレドニン)が標準療法とされてきましたが、これらの方々に対しても、新規治療薬を上手く併用することで治療効果を高めることが期待されています。血液学会の最新ガイドラインでは、推奨治療としてD-MPB療法(ダラツムマブ、メルファラン、プレドニン、ボルテゾミブ)やD-LD療法(ダラツムマブ、レナリドマイド、デキサメサゾン)が挙げられています。

骨髄腫に対する主な治療薬

免疫調整薬(サリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド)
骨髄腫細胞に直接作用するだけでなく、免疫細胞の働きを強めたり、腫瘍周囲の環境に影響を及ぼして高い治療効果が期待される薬剤です。免疫調整薬には共通して催奇形性(胎児に奇形を生じること)の副作用があるため、厳重な避妊管理のもとで処方がなされます。その他に、皮疹、末梢神経障害や血栓症の副作用が知られています。レナリドマイドはサリドマイド誘導体として催奇形性および末梢神経障害の副作用を軽減した薬剤で、治療効果も高いことから現在最も広く用いられている免疫調整薬ですが、腎臓の機能が悪い患者さんに使用する場合には注意が必要です。ポマリドミドは、レナリドマイドやボルテゾミブが効かなくなった患者さんにも一定の効果があり、骨髄腫の治療成績のさらなる改善が期待されています。

プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、イキサゾミブ)
プロテアソームという細胞内で働く蛋白分解酵素を阻害する分子標的薬です。骨髄腫細胞は、M蛋白と呼ばれる腫瘍性の蛋白を多量に作りだしますが、その過程で構造のおかしな蛋白を排除する必要があります。つまり、この排除・分解に携わるプロテアソームは骨髄腫細胞が生き残る上で重要な役割を果たしていると考えられており、この酵素の働きを妨げることで、骨髄腫細胞を死滅させます。高い効果を有していることから、初回治療・再発時など様々な状況で広く使用されます。正常な血液細胞に対する毒性の他に、よく見られる副作用として末梢神経障害や薬剤性肺炎・心障害などがあり、ボルテゾミブは末梢神経障害の起こりにくい皮下注射での投与が一般的です。近年、治療効果が高く末梢神経障害の副作用が少ないカルフィルゾミブ(心障害はやや多い)や、内服治療が可能なイキサゾミブなども使用できるようになっています。

抗体製剤(エロツズマブ、ダラツムマブ)
骨髄腫細胞の表面に出ている抗原に結合することで、骨髄腫細胞を傷害する働きを有する分子標的薬です。ダラツムマブとイサツキシマブはCD38という蛋白質を標的にします。この抗体製剤を投与するとCD38を出している骨髄腫細胞や制御性T細胞(免疫反応にブレーキをかける細胞)が減少することから、がん細胞に対する攻撃を強化できます。抗体製剤には共通して、インフュージョン・リアクション(投与時反応)と呼ばれるアレルギー反応の副作用が高頻度で見られます。加えてCD38抗体では気管支炎や肺炎などの呼吸器感染症のリスクが上昇することが知られています。一方で、エロツズマブはSLAMF7という蛋白と結合することが出来ます。この蛋白はNK細胞というがん細胞や細菌・ウイルスなどの異物を排除するのに重要な細胞の表面にも出ているため、この抗体製剤はNK細胞にも結合することでがん細胞を攻撃する働きを増強させると考えられています。

その他の薬剤として、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬(パノビノスタット)等が挙げられる他、CAR-T療法と同様にBCMAを標的とした二重抗体製剤などの治験が進んでおり、今後使用できるようになる可能性があります。

九州大学病院では、標準療法に加えて、より良い治療成績を求めて新規薬剤を組み合わせた治療法による臨床試験を主導的に行っており、また、全国に先駆けてCAR-T療法にも取り組んでいます。主治医の先生とよく相談して、最適な治療法を選択されてください。

用語解説

寛解導入療法 : がんの症状や徴候を軽減、消失させることを目的とした抗がん剤による治療法
同種造血幹細胞移植 : 大量の化学療法や全身への放射線治療からなる移植前処置のあとに、ドナーから採取した造血幹細胞を移植する方法
分子標的薬 : 癌に関与する遺伝子や遺伝子産物を標的とした薬剤による治療法。