九州大学病院のがん診療

眼部腫瘍

放射線治療

眼科領域は角膜・網膜・視神経といった視力に関係する重要な組織や、水晶体のような放射線感受性が高い、すなわち合併症が起こりやすい組織が存在します。そのため、この領域に放射線治療を行うにあたっては、その組織の機能を温存しかつ腫瘍制御をはかるために、より精度の高い治療が要求されます。当院では放射線科と連携をとり、正常組織への影響を最小限に抑えるためのIMRT(強度変調放射線治療)を行っております。眼科領域の悪性腫瘍は稀な疾患が多いですが、放射線治療が実施されているものとしては、眼付属器原発悪性リンパ腫、眼内悪性リンパ腫、脂腺癌、脈絡膜悪性黒色腫、転移性脈絡膜腫瘍などが挙げられます。以下に各疾患に対する放射線治療に関して記述します。

眼付属器原発悪性リンパ腫

眼付属器に生じる悪性リンパ腫の多くはMALT(mucosa associated lymphoid tissue)リンパ腫です。MALTリンパ腫は、遠隔転移が少なく、原発巣が長年かけて緩徐に増大することから、原発巣制御が重要です。原発巣の局所制御には、放射線治療が一般的には用いられています。照射方法は、前方1門や前方斜入2門照射などです。線量は腫瘤形成のものは30Gy/20回、表在型のものは24Gy/12回で行うことが多いです。

眼内悪性リンパ腫

中枢神経に再発する可能性があるため、基本的には全脳照射+両側眼球の範囲に照射が行われます。中枢神経病変を化学療法にて制御する場合は、眼内病変の制御目的に、病変のある眼球に対してのみ放射線治療が行われます。病変が片眼のときには前方1門、両側眼球に病変のある場合は左右対向2門にて40Gyの線量が投与されます。

脂腺癌

病変の大きさ、行った手術によっては、術後放射線治療が行われます。前方1門や前方斜入2門照射にて50-60Gyの線量が投与されます。耳前部や頸部のリンパ節転移再発病変に対しては、郭清後照射を行うことがあります。

脈絡膜悪性黒色腫

眼球温存目的に放射線治療が選択されることもあります。当院では、病変部へ線量を集中させ、正常組織への影響をこれまで以上に抑えることのできる強度変調放射線治療を、ノバリスという放射線治療装置を用い綿密な治療計画のもと行っています。重粒子線治療も保険で認められていますが、当院では行えないため、希望された場合には他院を紹介しています。

脈絡膜転移

乳がんや肺がんからの転移の頻度が多いです。症状は、視力低下・視野欠損・疼痛などで、症状緩和や視力低下回避目的に放射線治療を行います。

有害事象

急性期有害事象は、眼球や眼瞼結膜の炎症による流涙・疼痛や眼脂症状を認め、眼周囲の皮膚の炎症を起こすことがあります。晩期有害事象は、緑内障・放射線白内障・眼球乾燥・結膜炎や角膜潰瘍を認めることがあります。線量によっては視力低下をきたす可能性があります。このような有害事象がなるべく起こらないように治療の計画を立て、症例によっては放射線治療前に汎網膜光凝固術を行うことや、鉛で防護した上で照射することもありますが、病状によっては有害事象を避けられない場合もあります。詳細については、担当医にご確認ください。

用語解説

IMRT : 強度変調放射線治療。腫瘍の形状に合わせた線量分布を形成することで、正常組織の被ばく線量をより低減し腫瘍部分に集中的に照射することができる照射方法
悪性リンパ腫 : リンパ系組織から発生する悪性腫瘍
悪性黒色腫 : 色素細胞(メラノサイト)の癌化によって生じる悪性腫瘍
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
急性期有害事象 : 放射線治療期間中および照射終了1ヶ月程度まに発生してくる障害
晩期有害事象 : 治療が終了後約3か月以降に発生してくる障害