九州大学病院のがん診療

膵がん

Q&A

  • 膵がんはどのような病気ですか。
    食べ物が十二指腸に達すると、膵臓から膵液が分泌され、それに含まれる強力な消化酵素がたんぱく質や脂肪、炭水化物を消化分解します。これが膵臓の外分泌機能です。膵臓のもう一つの重要な働きは、インスリンを分泌して血糖のコントロールをする内分泌機能です。膵臓が高度に障害されると消化吸収不良と糖尿病がみられます。膵がんの大部分は膵臓の外分泌細胞、つまり膵液を分泌する膵管の細胞から発生する悪性腫瘍です。膵臓は体の奥にあるために早期の発見・診断が困難であり、また、膵臓の前後面を取り囲む障壁がないので病変が広がりやすく、更に、がんに到達する血管が乏しいために徹底した治療が困難です。そのため膵がんは「治しにくいがん」と考えられています。しかも、膵がんは年々増え続けている「がん」の一つで、発生率は男性では第7番目、女性では第6番目に多いのです。1年間に全国で約40,000人の方が膵がんになっています。
  • 膵がんによく見られる症状はどのようなものがありますか。
    早期の膵がんの場合は症状がない場合がほとんどですが、進行期には腹痛や背部痛、食欲不振、体重減少などが出てくることがあります。これらの症状は膵がんだけに特徴的なわけではなく、胃の病気などでも出てくることがあります。膵がんに特徴的な症状としては、身体や白目の部分が黄染してくる黄疸という症状があります。前兆として体がかゆくなったり、尿が茶褐色になったり、便の色が白くなったりすることがあります。この症状は膵臓の頭の部分にできたがんが胆汁という消化液の流れ道である胆管を塞いでしまって、体に胆汁の成分が流れ込んでしまうためです。膵がん以外にも肝障害や胆石で黄疸が出ることがあります。また元々、糖尿病だった患者さんが急に血糖のコントロールが悪くなったり、健康だった人が糖尿病になることもあります。
  • 膵がんと糖尿病は関係がありますか。
    膵がん患者の約2割に糖尿病の既往歴があるとされています。通常、膵がんによる主膵管閉塞のために起こる上流側の閉塞性膵炎や膵実質ががん組織に置き換わるために、インスリン分泌が減少し糖尿病を発症すると理解されていますが、糖尿病が膵がんの発現に関与するという考え方もあります。糖尿病患者で血糖コントロールが急に悪化したことをきっかけに膵がんが発見された方も少なくありません。高齢者で初めて糖尿病と診断された方や家族歴のない糖尿病の方は膵がんの可能性を念頭において一度検査を受けた方がいいと思われます。
  • 超音波検査で膵臓にのう胞があると言われました。放置していても良いですか。
    近年、超音波検査を含む検診の普及により無症状の膵のう胞(液がたまった袋)が発見される頻度も増えてきています。肝臓や腎臓ののう胞の場合、経過観察になることが多いのが現状ですが、膵にのう胞が見つかった場合は注意が必要です。膵のう胞の多くは膵炎に伴った仮性のう胞ですが、腫瘍性のう胞というものも存在します。発見時既にがんであるもの、現在小さくても大きくなり、がん化するものもあります。また膵のう胞の検査中に膵臓の他の部位がんがみつかるケースもあります。経過観察となることも多いですが、精密検査が必要となる場合もあり放置してはいけません。
  • 膵がんはどのような方法で診断しますか。
    血液検査で膵がんを拾い上げるのに重要なものとして、血清アミラーゼ、エラスターゼ1、腫瘍マーカー、血糖値などがあります。腹部超音波検査で膵臓に腫瘤や膵管に変化が認められ、精密検査となるケースも増えていますが、その場合腹部CTや腹部MRI検査を次に行います。さらに詳しい検査としては膵管造影という膵臓の管や胆管に造影剤を注入してレントゲン撮影を行う検査や超音波内視鏡検査があります。いずれも内視鏡を使って行う検査で、膵液中の細胞や腫瘤内の組織を採取して病理診断を行うこともできます。
  • 膵がんの早期発見はできますか。
    現在、膵がんが早期発見されることは多くありません。それは腹痛などの症状が発現してから検査を受けてもすでに進行がんになっていることが多いからです。エコー、CT、MRIなどの画像検査を定期的に行えば早期発見の確率は高まりますが、膵がんの発症頻度は少ないため、全ての人にこれらの検査を行うのは現実的ではありません。そのため慢性膵炎、糖尿病、膵管内乳頭粘液性腫瘍(腫瘍性膵のう胞)の方、家族に膵がんがいる方など膵がんのハイリスクグループに加えて、血液検査で膵酵素の高値、画像検査で膵管拡張や膵のう胞を認めた方などに対して、膵臓の精密検査を積極的に行うことが、膵がんの早期発見につながると期待されています。 
  • 膵がんの治療方法はどのようなものがありますか。
    膵がんに対する治療は、画像検査などを基にして、治療方針が決められます。他臓器転移がなく、膵近傍の主要動脈へがんが拡がっていなければ、外科切除が選択されます。また、他臓器転移がなくても、膵近傍の主要動脈へがんが拡がっていれば、外科切除は不可能であり、抗がん剤を用いた化学療法、抗がん剤を併用した放射線療法が選択されます。他臓器にまでがんが拡がっていれば、抗がん剤を用いた全身化学療法が中心となります。膵がんに対して用いられている抗がん剤は、塩酸ゲムシタビンとS-1という薬剤が標準とされてきましたが、4剤を併用したFOLFIRINOX療法、塩酸ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法が塩酸ゲムシタビン単独よりも効果があることが報告され日本でも保険適応となっています。しかし、副作用も出やすくなるため、年齢や全身状態、合併症などによって使い分ける必要があります。また、黄疸、消化管狭窄、がん性疼痛、糖尿病の悪化、うつ傾向などといった膵がんに伴う諸症状に対する治療も重要となります。
  • 膵がんの手術はどのようにしますか。
    がんが膵の右側(頭部)にあるか左側(体尾部)にあるかで、大きく膵頭十二指腸切除と膵体尾部切除に分けることができます。膵頭十二指腸切除は、膵頭部・十二指腸の大部分・胆嚢・胆管を全て取り除く非常に大きな手術になります。施設によっては定型的手技として胃を切除するところもあります。切除後には、膵管・胆管・十二指腸(胃)をつなぎ合わせなければなりません。体尾部切除は膵の左側と脾臓を切除する術式で切除後に何かをつなぎ合わせる必要はありません。 膵癌に対する膵体尾部切除は2016年より腹腔鏡下手術が保険適応となったため、進行状況によっては腹腔鏡下膵体尾部切除術が行われます(膵頭十二指腸切除術は適応外)。
  • 黄疸があり、近くの病院で手術ができない膵がんと診断されました。どうしたら良いでしょうか。
    膵がんに対して、どのような治療を選択するかは膵がんの病期(広がり)と全身状態によって変わります。その治療法は前述されているように、全身状態によって変わります。全身状態が割合良好で、膵がんが膵臓あるいはその近傍に限局している場合は切除手術を中心とした治療が選択されます。また、切除できない理由がある場合には、化学療法か、放射線療法と化学療法の組み合わせが行われます。一方、黄疸が出現するのは膵頭部に発生したがんにより胆管をつまらせていると考えられ、内視鏡的にあるいは経皮的に黄疸を改善させることで全身状態の改善をさせることができると考えられます。さらに、その他の全身状態の管理(痛みのコントロールや栄養管理、心の状態の安定)を図る必要があると考えられます。
  • 手術後の補助療法にはどのようなものがありますか。
    膵がんは外科的切除が可能であっても、手術後早期にがんの局所再発や他臓器への転移が出現してしまうことがあります。そのため、手術後の一定期間(約6ヶ月間)、抗がん剤を用いた全身化学療法が推奨されています。ここで用いる抗がん剤はS-1が標準薬とされています。また、手術後の局所に対する抗がん剤併用放射線療法も行われています。
  • 膵がんの化学療法にはどのような治療がありますか。
    2001年4月から注射剤である塩酸ゲムシタビン(GEM)が膵がんに対する化学療法として保険適応が認められ、2006年8月からは内服薬としてテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(S-1)(ティーエスワン®)に保険適応が認められました。長らくGEMとS-1が膵がんの化学療法の中心でしたが、2013年12月にはFOLFIRINOX療法(オキサリプラチン+塩酸イリノテカン+フルオロウラシル+レボホリナート)、2014年12月にはGEM+ナブパクリタキセル(アブラキサン®)併用療法が保険適応となりました。これらの併用療法はGEM単独療法より治療効果が高いとされていますが、全身状態や年齢などを考慮し、副作用もみながら使い分けることになります。
  • 膵がんで強い痛みがあるときはどうしたら良いでしょうか。
    膵がんで強い痛みがある時は自分ひとりで我慢しようとせずに、家族や看護師、医師にすぐ相談してください。膵がんに限らず全てのがんの痛みに対して緩和ケアでは痛みを取り除くことを第一に考えています。WHO(世界保健機構)は、「痛みに対応しない医師は倫理的に許されない」と述べています。 痛みは取り除くことができる症状であり、そのための治療を受ける権利は誰にでもあります。また痛みなどの症状による体力消耗を防ぐことで、がん治療に取り組む力もどんどん湧いてきます。痛みのコントロールでは、最初はNSAIDsと呼ばれる初期の痛み止めが使用されます。それでもおさまらない場合はしばしば「医療用麻薬」が併用して使われます。医療用麻薬は、がんの痛みにとても有効な薬です。使う量に上限がないので痛みが強くなればそれにあわせて薬を増やすことができます。しかし麻薬中毒のイメージから医療用麻薬を敬遠され、痛みを我慢して過ごしている方も少なくありません。医療用麻薬は痛みがある状態で使用すると中毒にならないことがわかっています。副作用に対しても様々な薬や対処法が開発され十分に対応できるようになっています。また医療用麻薬の種類も増えたことから個々人の痛みに応じた薬を使用できるようになっています。医療用麻薬以外にも放射線治療やステロイド、神経ブロックなどが有効なこともあるので医師に相談すると良いでしょう。