九州大学病院のがん診療

膵がん

内科的治療

膵がんに対する治療方針

現在の日本における膵がんの治療方針は、その進行度によって、2016年版膵がん診療ガイドラインの膵癌治療のアルゴリズム(下図)に基づいて行われており、当院でもそれに準じて治療を行っています。

膵がんでは、腫瘍が小さく周囲臓器に及んでいないもの(cStage 0〜Ⅱ)に対しては外科手術が第一選択になりますが、周囲の大血管に浸潤したもの(cStage Ⅲ)の一部、遠隔転移を有するもの(cStage Ⅳ)に対しては抗がん剤を用いた全身化学療法が行われます。cStage Ⅲの一部には化学放射線療法が行われることもあります。外科手術や放射線治療(化学放射線療法を含む)については、それぞれ該当の項をご覧ください。ここでは、現在当院で膵がんに対して行っている標準的な化学療法を紹介いたします。

図 膵癌治療のアルゴリズム
(膵癌診療ガイドライン2016年版より引用・改変)

膵がんに対する化学療法の実際

1990年代前半までは有効な治療法がありませんでしたが、1990年代後半になり塩酸ゲムシタビン(商品名:ジェムザール)が登場して、膵がんに対して優れた治療効果を示し、膵がんに対する化学療法は大きく進歩しました。その後、塩酸ゲムシタビンは世界中で広く使用されるようになり、わが国でも2001年に保険で認められました。さらに、わが国では塩酸ゲムシタビンの他に、胃がんなどで用いられるS-1(商品名:TS-1)も臨床試験で膵がんに対して良好な効果が得られることが示され、2006年に保険で認められました。2010年代に入るまで、日本では主としてこの2つの薬剤が使われてきました。その後、ゲムシタビン単独より治療効果が高い方法が報告され、日本国内でも、塩酸ゲムシタビンにエルロチニブ(商品名:タルセバ)を併用する治療(2011年)、4種類の抗がん剤を併用するFOLFIRINOX療法(2013年)、塩酸ゲムシタビンにアルブミン結合型パクリタキセル(商品名:アブラキサン)を併用する治療(2014年)が次々と認可されました。これらの新規治療法の開発により、膵がんに対する化学療法は近年大きく進歩しています。

いずれの化学療法も病状により入院もしくは外来で導入し、副作用の程度を見ながら患者さんごとに投与方法の調整をしていきます。投与方法が安定すれば、外来での治療継続が可能です。以下にそれぞれの概要を示します。

⑴ 塩酸ゲムシタビン単独療法
塩酸ゲムシタビンによる治療は、1週間に1回だけの点滴で、1回に投与する量は身長と体重から算出した体表面積から計算します。点滴に要する時間は30分で、通常それに先行して予防的に吐き気止めの点滴を15〜30分で行います。1回の治療に要する時間は全体でおよそ1時間前後です。これを3週間続けて投与し、次の1週間はお休みです。この4週間を1コースとして繰り返していきます。当院での外来治療は投薬日に来院していただき、採血、担当医の診察後に投与可能であれば、外来化学療法室で行っています。

⑵ S-1単独療法
S-1は内服薬で、体表面積から投与量が決まり、朝夕2回に分けて食後に内服します。通常はこれを28日間(4週間)連日内服し、その後14日間(2週間)はお休みとなります。この6週間を1コースとして繰り返していきます。患者さんによっては、14日間(2週間)連日内服し、その後7日間(1週間)はお休みする方法で、3週間を1コースとして繰り返すこともあります。

⑶ FOLFIRINOX療法(オキサリプラチン、レボホリナート、イリノテカン、フルオロウラシル)
FOLFIRINOX療法は、オキサリプラチン、レボホリナート、イリノテカン、フルオロウラシルの4種類の抗がん剤を併用する治療法です。すべての薬剤を点滴で投与します。オキサリプラチン、レボホリナート、イリノテカン、フルオロウラシルの急速静注までを1日目に投与し、その後2日間フルオロウラシルの持続点滴を行います。投与には3日間(全部で48時間)かかるため、事前に中心静脈ポートの造設(中心静脈カテーテルを挿入し、皮下に埋め込む処置)が必要となります。同様の治療を2週間毎に繰り返します。ただし、この治療は副作用や体に与える負担が比較的大きく、65歳以上の患者さんには不適とされています。そこで、当院を含めた多くの施設では副作用を軽くするために、イリノテカンを減量し、フルオロウラシルの急速静注を省略した方法(modified FOLFIRINOX:mFOLFIRINOX療法)を用いています。mFOLFIRINOX療法も通常のFOLFIRINOX療法と同様の点滴時間(3日間)を必要とします。通常のFOLFIRINOX療法を行うか、mFOLFIRINOXを行うかは患者さんごとに決定します。

⑷ 塩酸ゲムシタビン+nab-パクリタキセル(アブラキサン)併用療法
膵がんに対する最も新しい治療法です。塩酸ゲムシタビンとnab-パクリタキセル(アブラキサン)を同じ日に点滴にて投与し、その治療を週1回3週間続けて投与し、4週目はお休みとなります。1回の点滴時間は塩酸ゲムシタビン単独治療より若干長くなりますが、全体のスケジュール(4週間を1コース)は塩酸ゲムシタビン単独治療と同様です。

これまで述べたように、膵がんの化学療法には複数の方法があり、どの治療法を用いるかは患者さんの年齢、全身状態、元々の持病、などで異なります。一般的に年齢が若く、全身状態が良好な方は、⑶のFOLFIRINOX療法(mFOLFIRINOX療法)か⑷の塩酸ゲムシタビン+nab-パクリタキセル併用療法を行うことが多いですが、⑶と⑷のどちらが優れているかはまだ分かっていません。担当医とよく相談し、一緒に治療法を決めていくことが非常に重要となります。

副作用

副作用は個人によって差がありますが、代表的なものを以下に示します。

すべての薬に共通する副作用としては嘔気、嘔吐、便秘、下痢などの消化器症状、倦怠感、食欲不振、一時的な発熱、皮疹等が代表的です。これらに対しては多くの場合、内服や点滴で対応が可能ですが、程度が強い場合には抗がん剤の減量や場合によっては中止せざるを得ないこともあります。このほかに、自覚できない副作用として血液を造る骨髄の機能が抑制される骨髄抑制(白血球減少、貧血、血小板減少など)や肝障害、腎障害があります。これらに対しては定期的な血液検査を行い、副作用の有無をチェックします。骨髄抑制に対しては投薬量の減量などで対応しますが、必要に応じて白血球を増やす注射、赤血球や血小板の輸血を行います。肝障害や腎障害に対しては休薬や抗がん剤の減量などで対処します。特にmFOLFIRINOX療法や塩酸ゲムシタビン+nab-パクリタキセル併用療法は抗がん剤の多剤併用療法となるため、骨髄抑制も高度となることがあり、十分な注意を払って治療を行っています。また、抗がん剤に共通する副作用で重篤なものに間質性肺炎や薬に対するアレルギーがあります。間質性肺炎は、時として命に関わることもあり、投薬の中止や特別な治療(ステロイド治療)を考慮しなければなりません。息切れや空咳が続く場合には担当医にご連絡ください。

その他、S-1に見られる副作用として、口の粘膜が荒れる口内炎や、爪や皮膚が黒ずんでくる色素沈着が挙げられます。口内炎に対しては外用薬の塗布や痛み止めを含んだうがい薬などで対応します。色素沈着に対しては、それ自体で体調に悪影響を及ぼすことはないので特に対処はしませんが、特に気になる場合は担当医にご相談ください。FOLFIRINOX療法、塩酸ゲムシタビン+nab-パクリタキセル併用療法に特徴的な副作用としては、高度な骨髄抑制、末梢神経障害、間質性肺炎が挙げられます。また、塩酸ゲムシタビン+nab-パクリタキセル併用療法では脱毛が高率に見られます。

副作用に対しては、早期発見、早期治療、抗がん剤の休薬・中止にて対応しています。ここに挙げていない予測できない副作用が現れることもありますので、何か気になる症状がありましたら、遠慮なく担当医にご相談ください。

用語解説
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
化学放射線療法 : 抗がん剤と放射線を組み合わせて行うがんの治療方法
カテーテル : 体腔や消化器などの体内容物の排出・採取、薬物の注入目的に使用される細い管
骨髄抑制 : 抗がん剤などによって骨髄内の正常血球細胞の産生が障害されること
間質性肺炎 : 肺にある間質と呼ばれる組織に炎症を生じる疾患の総称