九州大学病院のがん診療

膵がん

外科的治療

当院は膵がんを含めて膵切除術を年間約100例行う全国有数の施設です。膵がんには浸潤性膵管がん(通常型膵がん)、膵管内乳頭粘液性腫瘍(腺がん)、神経内分泌がん、その他悪性嚢胞性腫瘍肉腫などがあります。膵がんの手術は膵頭部に存在する場合には膵頭十二指腸切除術を、膵体尾部に存在する場合には膵体尾部切除術を原則的に行い、疾患に応じてリンパ節郭清を付加します。また根治性が望める場合には膵全摘術も行っています。腹腔鏡下膵切除術やロボット支援下膵切除術も積極的に行っております。切除不能膵がんであっても、化学療法化学放射線療法でがんが小さくなったり、長期にわたってがんが大きくならない時は、根治を目的とした切除を行うこともあります。

浸潤性膵管がん

原則的にリンパ節郭清を伴う膵切除術を行っており、必要に応じて門脈などの血管合併切除・再建を行います。ガイドラインに基づいて、生存率の向上を目的とした術前化学療法を原則行うようにしています。切除した後も、S-1もしくはジェムザールによる補助化学療法を行っています。最近では高度局所進行膵癌に対する重粒子線治療も行っております。手術は開腹手術が基本ですが、病変の進行具合に応じて腹腔鏡や手術支援ロボットを用いた低侵襲膵頭十二指腸切除術2020年4月保険収載)や低侵襲膵体尾部切除術(2016年4月保険収載)が行われることもあります。

当院での2012年から2022年までの浸潤性膵管がん425切除例の成績を図1に示します。5年生存率はStageⅠ;65%(43例)、StageⅡA;45%(105例)、StageⅡB;26%(235例)、StageⅢ;28%(13例)、StageⅣ;14%(23例)です。

膵管内乳頭粘液性腫瘍

粘液を産生する袋状の膵腫瘍で、膵がんの早期発見につながるため注目を集めている疾患です。軽度異型から、高度異型の非浸潤癌、浸潤癌へ進行していくことを特徴とし、ガイドラインに示してある悪性を示唆する所見を有する際に切除術が勧められます。良性腫瘍でも膵炎などの症状を有する場合には切除術の対象となります。これまでの当院での切除例数は368例で、世界的にも有数のものです。悪性度の内訳は軽度異型199例(54%)、高度異型85例(23.1%)、浸潤がん84例(22.8%)です。良性腫瘍には膵分節切除術や、脾臓温存、十二指腸温存などの臓器を温存した縮小手術を行いますが、悪性腫瘍には浸潤性膵管がんと同様にリンパ節郭清を含む膵切除術を原則的に行います。また分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍は良性が多いと言われていますが、分枝型腫瘍の約10%に通常型膵がんが合併することを我々は報告しており、術前検査や術後経過観察中も十分注意して診療を行っています。

当院での1987年4月から2022年12月までの膵管内乳頭粘液性腫瘍368切除例の成績を図2に示します。5年累積生存率は軽度異型97%(123例)、高度異型90%(46例)、浸潤がん59%(17例)です。

その他の膵がん

原則的に通常型膵がんや膵管内乳頭粘液性腫瘍に準じた治療を行います。
用語解説
膵管内乳頭粘液性腫瘍 : 多量の粘液を産生し、のう胞を作る腫瘍
悪性嚢胞性腫瘍 : 膵臓にできる嚢胞(ふくろ状の)の腫瘍
肉腫 : 悪性腫瘍のうち、線維、血管、骨、軟骨、筋肉、造血組織などから発生するもの
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
化学放射線療法 : 抗がん剤と放射線を組み合わせて行うがんの治療方法
重粒子線治療 : 重粒子線を使い、がん細胞だけを集中して照射する治療