九州大学病院のがん診療

多臓器腫瘍

はじめに

がんの治療には大きく内科的治療(抗がん剤)、外科的治療(手術)、放射線治療があり、患者さんの病状に合わせて適切な治療法を選択します。例えば他の臓器に転移のあるがん患者さんの場合には、通常手術は難しいと考えられますが、大腸がんにおいては転移があっても可能であれば手術するほうが長期生存できることが以前より知られていました。

近年、化学療法の進歩に伴う高い抗腫瘍効果・延命効果、手術療法の進歩に伴う切除可能な症例の拡大などそれぞれの治療法の進歩により、診断時は転移のため手術困難と考えられても、はじめの治療効果により根治手術ができるようになるいわゆるコンバージョンセラピーを期待できる患者さんが増えており、その結果、長期間の生存が得られています。このようにはじめの治療が良く効いた場合、長期生存を目指して他の治療法に変更すべきか、そのまま治療を継続するのか判断を迫られることになりますが、1つの診療科だけでは判断に苦慮します。

また放射線治療も従来の外照射に加えて、重粒子線治療や陽子線治療あるいは腔内照射など様々な照射法があり、疾患・部位により適切な照射方法が異なってきます。

転移を有する患者さんに対してどの治療法が最も適切であるのか、治療内容が進歩・複雑化した現在のがん治療においては単独の診療科で判断するのは困難であり、多数の診療科が集まって議論を出来る場として多臓器腫瘍部会が設置されました。

関係診療科・部門

内科(血液・腫瘍・心血管内科、消化管内科)、外科(消化器・総合外科、臨床・腫瘍外科)、放射線科、泌尿器・前立腺・腎臓・副腎外科、整形外科、顔面口腔外科、病理診断科、薬剤部、九州大学がんセンター、看護部

当部会での検討内容

多臓器腫瘍部会は毎週金曜日の朝に開催し、2019年は計50回実施しました。図1・2に検討がん種の内訳および検討内容を示します。約120例の検討を行い、図1に示す通り食道がん・胃がん・大腸がんなどの消化器がんが多いですが、原発不明がん(4例)や肉腫(7例)、その他には胚細胞腫瘍、消化管間質腫瘍、舌がん、皮膚有棘細胞がんなど様々な部位・種類のがんも含まれています。

検討内容(図2)は、先述のコンバージョンを含めた手術の可能性や根治性、術後補助化学療法あるいは進行がんに対する化学療法の薬剤選択、重粒子線治療や陽子線治療を含めた根治的照射に加えて、がんの進行に伴う疼痛や通過障害に対する緩和的照射の適応などを内科、外科、放射線科の視点から幅広く議論を交わし、最適な治療法を選択しています。また診断が困難な患者さんの画像検査や生検についての検討も行っています。

具体的には、食道がんについては臨床病期Ⅰ期の症例に対して根治的化学放射線療法は手術と同等の治療効果であり、臨床病期Ⅱ、Ⅲ期の症例に対しては術前化学療法が標準治療に組み込まれ、またどの臨床病期においても緩和的(化学)放射線療法の適応となることから、ほぼ全ての患者さんを集学的治療の対象として検討しています。

胃がんについては原発巣による狭窄や腹膜播種に伴う腸閉塞に対するバイパス術、出血・狭窄に対する手術・放射線治療の適応、術後補助化学療法の是非やそのレジメン、進行・再発症例に対するレジメン選択などにつき検討を行っています。

大腸がんについては先述の通り手術できなかった症例が手術できるようになり、手術にコンバージョンするのか化学療法を継続するのか検討を行う症例、診断時に大腸の狭窄が進行しており化学療法を先行するか、原発巣に対する外科的治療(切除ないし人工肛門)を先行すべきか検討する症例、あるいは直腸がんの局所再発に対する放射線療法につき検討を行う症例が多くみられます。

肉腫については根治的切除の可否、進行がんに対するレジメン選択につき検討を行っています。

神経内分泌腫瘍・神経内分泌がんに対しては術後補助化学療法の是非や進行症例に対する検査・治療方針について検討を行っています。

また、がん種を問わずがんの進行、特に骨転移に伴う疼痛を訴えられる患者さんに対する疼痛緩和を目的とした緩和的放射線治療の適応なども検討しております。

図1 検討がん種

図2 検討内容

まとめ

がんの進行による病状の変化に対応して複数の診療科で検討を行い、がん治療の進歩に基づく最適な医療を提供できるよう今後も努めていきます。
用語解説

化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
コンバージョンセラピー : 根治切除不能ながんに対し、化学療法で小さくしてから手術を行う治療法
重粒子線治療 : 重粒子線を使い、がん細胞だけを集中して照射する治療。
肉腫 : 悪性腫瘍のうち、線維、血管、骨、軟骨、筋肉、造血組織などから発生するもの
胚細胞腫瘍 : 胚細胞腫瘍のひとつで悪性に分類される腫瘍。
病期 : 疾病の経過をその特徴によって区分した時期
化学放射線療法 : 抗がん剤と放射線を組み合わせて行うがんの治療方法
集学的治療 : 外科的治療、化学療法、放射線療法などの複数の治療方法を組み合わせて行うがんの治療法
播種 : 癌細胞が体の中で散らばった状態
バイパス術 : 狭窄や閉塞をきたした経路に対し、直接修復が不可能な場合、人工的に迂回路をつくる手術