九州大学病院のがん診療

甲状腺がん

はじめに

甲状腺は頸部の正中下方で、喉頭・気管の前面を取り囲むように位置する器官です。蝶のような形をしており、全身の細胞の機能・代謝を調節する甲状腺ホルモンを分泌します。

甲状腺がんは初期の症状はほとんどありませんが、咽喉頭異常感症のため精査を進めた時に偶然発見されることがあります。しかし、実際には、発見されたきっかけは甲状腺のしこりや、転移リンパ節がしこりとして触れたものが多いようです。また、甲状腺のすぐ後ろには反回神経という声帯の運動に関わる神経が存在しているため、がんがこの神経を巻き込み神経の働きが悪くなると声がかれることもあります。

ここに発生するがんは一般に4種類のものに分けられ、それぞれに特徴があります。なかでも、分化がんと呼ばれる乳頭がんと濾胞(ろほう)がんが大部分を占めます。これらのがんは、一般に腫瘍の増大は穏やかで中高年の女性に多い(男性の3-4倍)とされています。10年生存率も90%以上との報告が多く、全身に発生する他のがんと比較して予後の良いがんの一つと考えられます。

このほかには、随様がん、未分化がんがあります。髄様がんには遺伝性のものとそうでないもの(孤発性)のものがあります。未分化がんは全体の1%以下と数は少ないものの、急激な増大、転移をきたすことが多く、最も悪性度が高く予後が悪いがんです。

このように、性質の違うがんが発生する可能性がありますので、どのタイプのがんであるかを診断することが重要です。その結果によって、治療方針が変わってきます。

  分化がん 髄様がん 未分化がん
乳頭がん 濾胞がん
頻度* 85.7% 11.3% 1.4% 1.6%
腫瘍の増大 穏やか 穏やか 一定しない 急速
頸部リンパ節転移 多い 少ない 多い 多い
治療 外科的治療 集学的治療
その他   血行性転移が多い 家族性に発生することがある 分化がんの一部が未分化転化することがある

*甲状腺外科学会の統計(2001年)による

用語解説
咽喉頭異常感症 : 咽喉頭部や食道の狭窄感、異物感、不快感などを訴えるが検査値の異常や器質的病変がみられないもの
集学的治療 : 外科的治療、化学療法、放射線療法などの複数の治療方法を組み合わせて行うがんの治療法