九州大学病院のがん診療

肺がん

はじめに

肺がんは悪性腫瘍による死亡原因の第1位であり、わが国においては年間8万人近い患者さんが肺がんでお亡くなりになっています。肺がんの治療成績向上には早期発見が最も重要でありますが、手術不能の進行した状態で発見される患者さんも多くいらっしゃるのが現状です。健康診断等で定期的に胸部レントゲン写真を受けることも大事ですし、胸部レントゲンで所見があれば、胸部CT検査などの精密検査を受けていただくことになります。

肺がんは小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分類されます。非小細胞肺がんは肺がんの85%程度を占めており、さらに腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんに分類されます(下図)。

肺がんの治療方針は肺がんの種類、病気の広がり、他の臓器への転移の有無の状況などによって決まります。早期の段階であれば手術や放射線治療、進行している場合は薬物治療が選択されます。症状が強く全身状態が悪い場合は症状緩和を中心とした治療を行います。手術、放射線治療、薬物治療は、患者さんの状態によって、どのように肺を切除するか、放射線はどのように照射するのか、薬剤は何を使うかなど変わってきます。薬物療法に関しては、肺がん細胞に特定の遺伝子異常(EGFR遺伝子変異、ALK遺伝子転座、ROS1遺伝子転座など)が検出されれば、効果の高い分子標的治療薬が使われます。近年、免疫チェックポイント阻害剤が導入され、抗がん治療と組み合わせることにより、高い治療効果が得られるようになってきています。

進行期の肺がんの治療成績はまだまだ満足できるものではありませんが、新しい治療法や薬剤の開発は次々に進められています。これら新しい治療法の効果は臨床試験や治験での科学的な評価が必要です。九州大学病院ではより良い治療法を開発するために多くの臨床試験・治験を実施しています。臨床試験・治験への参加には条件があり全ての方が参加できるわけではありません。もし条件に合致する場合は、試験についての説明をよく聞いて参加するかどうかを決めてください。肺がんの治療は、ご自身の病気のことをよくご理解した上で、十分に納得して治療を受けることが大事です。がん診療2021を病気の理解に役立てていただければ幸いです。

用語解説

CT : コンピュータ断層法。身体の横断断層を撮影する特殊なX線装置
分子標的治療薬 : 癌に関与する遺伝子や遺伝子産物を標的とした薬剤による治療法
免疫チェックポイント阻害剤 : 免疫療法のひとつ。がん細胞により抑制されていた免疫機能を活性化させる