九州大学病院のがん診療

骨軟部腫瘍

はじめに

九州大学病院では、整形外科が中心となり骨や軟部組織に発生した腫瘍(骨軟部腫瘍)の治療を行っており、血液腫瘍内科、放射線科、外科、小児科、小児外科、皮膚科などの協力を得て集学的治療による悪性骨軟部腫瘍患者さんの生命予後の改善と、整容性と機能性に優れた患肢温存治療の実践に大きな力を入れています。骨軟部腫瘍の診療は整形外科では5名のがん治療認定医を取得した整形外科専門医が担当しております。

新患の受付は月・水・金の午前中で、腫瘍専門再来は月曜午後となっています。整形外科での腫瘍症例数は年々増加しており、近年の腫瘍関連手術件数は250〜300件にも及び、国内有数の骨軟部腫瘍治療施設です。以下に診療内容について簡単に説明します。

悪性軟部腫瘍

脂肪肉腫、未分化多形肉腫、平滑筋肉腫、滑膜肉腫などが代表的な腫瘍です。外来で特殊な針を用いて、もしくは手術室で組織を一部採取して診断をつけます(これらを生検といいます)。治療は外科的治療が主体で、ほとんどの症例で切断することなく、患肢温存手術を実施しています。粘液型脂肪肉腫などで深部に発生して神経や血管と接している場合には、手術前に温熱療法と放射線療法を併用することで神経および血管を温存する術式を行って、良好な成績を収めています。また、悪性の程度が高い場合には、血液腫瘍内科と共同で抗がん剤を用いた化学療法を行っています。悪性骨軟部腫瘍は比較的稀であるため、治療成績改善のために全国規模の臨床研究も行っています。成人で頻度が高い高悪性度軟部肉腫に対しては、九州大学が主体となり、術前および術後の化学療法の効果を検討する多施設共同研究を実施致しています(詳細は内科的治療の項目をご参照ください)。

悪性骨腫瘍

骨肉腫軟骨肉腫ユーイング肉腫などが主な腫瘍です。骨腫瘍の場合は、ほとんどの場合手術室で組織を採取して診断を確定します。悪性度が高い骨肉腫やユーイング肉腫では、手術治療に加え、術前および術後の化学療法が必須の治療となります。骨肉腫に対しては、過去に行われた多施設共同研究に基づく化学療法(NECO-95J)を実施し、良好な治療成績を得ることができました。平成22年からは化学療法(NECO-95J)の結果をもとに新たに作成した治療方法(JCOG0905)を開始しています。小児では骨肉腫に次いで頻度が高いユーイング肉腫に対しては、VDC+IEレジメンによる治療を行い良好な成績を得ています。また、通常の化学療法のみでは治療しにくいハイリスク・ユーイング肉腫の症例に対しては、末梢血幹細胞移植(PBSCT)を併用した高用量化学療法を小児科、血液・腫瘍内科と共同で実施しています。手術に関しては、骨腫瘍においてもほとんどの症例で患肢温存手術を実施しています。悪性骨腫瘍の広範切除後には、大きな骨欠損が生じることが問題となりますが、腫瘍用人工関節、同種骨あるいはパスツール処理骨移植血管柄付腓骨移植等によって再建を行い、良好な術後患肢機能の獲得をはかっています。軟部組織の欠損に対しても、各種の皮弁形成術等による再建を行っています。

月に一度、腫瘍内科、形成外科、放射線科、病理部などと合同でカンファレンス(骨軟部腫瘍部会)を開催し、質の高い集学的治療が提供できる体制を整えています。

診断
用語解説

集学的治療 : 外科的治療、化学療法、放射線療法などの複数の治療方法を組み合わせて行うがんの治療法
脂肪肉腫 : 脂肪細胞から発生する肉腫
滑膜肉腫 : 発生頻度は比較的まれな腫瘍で下肢、とくに大腿、膝周辺の骨や軟部組織に好発する腫瘍
患肢温存手術 : 四肢発生の悪性骨・軟部腫瘍に対して行われる手術法の一つ。従来の切断・離断術とは異なり、出来るだけ切除する範囲を小さくし、体の機能を残す術式
温熱療法 : 温熱を利用したがんの治療方法
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
肉腫 : 悪性腫瘍のうち、線維、血管、骨、軟骨、筋肉、造血組織などから発生するもの
骨肉腫 : 腫瘍細胞が直接、骨を形成する能力を有する悪性腫瘍で、原発性骨悪性腫瘍のうち最も発生頻度の高い腫瘍である
軟骨肉腫 : 骨肉腫に次いで多く、軟骨を形成する悪性腫瘍
ユーイング肉腫 : 骨や軟部組織から発生する腫瘍
パスツール処理骨移植 : 腫瘍を含めて広範に切除した腫瘍骨から腫瘍を掻き出し、周囲の筋肉などを除去した後に、骨に残った腫瘍細胞の死滅を目的に処理を行い、その骨を再建に用いる方法
血管柄付腓骨移植 : 腓骨と周りの血管をつけたまま採取し,骨欠損部に移植する方法
皮弁 : 血流のある皮膚・皮下組織や深部組織のこと