九州大学病院のがん診療

がん薬物療法部会

当部会の検討・活動内容

がん薬物療法部会は2020年10月から活動開始し、毎月第4火曜日に開催しています。主な検討・活動内容は下記に示します。
(1)がん薬物療法(支持療法も含む)に関する副作用管理体制の立案と運営
(2)がん薬物療法(支持療法も含む)に関する副作用のデータ分析と評価
(3)抗がん薬の副作用に関するレクチャーと症例検討
(4)その他

下記①〜③に、ICIの適正使用推進およびirAEの早期発見と早期対応を念頭においた具体例検討・活動内容を示します。これらの取り組みは、国内外のガイドラインの改訂等にあわせて、適宜見直しを行っています。

irAEの早期発見のために検査項目を標準化しています。検査項目は必須の検査と、患者個々のリスクに応じての検査とし、それぞれで推奨グレードを設定しています。さらに、ICI治療導入の可否を決定するためのスクリーニング検査、および治療継続時にirAEを早期発見するためのフォローアップ検査を設定しています。

②irAEは、急速に重篤化して致死的となる一方で、その多くは早期から適切に対処可能であり、患者から聴取する自覚症状にも表れます。このことから、患者教育シートと副作用確認シートを作成しました。患者教育シートは、早期に起こり得る臨床症状を選定し、重篤化リスクに応じて、直ちに病院への連絡が必要な症状と、次回受診時に必ず伝えるべき症状に分類し、患者が理解しやすいよう自覚症状を平易に表現したものです(図1)。副作用確認シートは、内分泌障害、間質性肺の副作用発現時に参考となる体温、体重、脈拍、SpO2等のバイタル、副作用自覚症状等をCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)のGradeで分類し、メディカルスタッフが一様に、irAEの自覚症状を確実に聴取できるようにしたものです(図2)。

③irAE発現時の治療を円滑に行うため、irAEの種類(間質性肺疾患、内分泌障害、神経障害、1型糖尿病、皮膚障害、肝・腎機能障害、下痢・腸炎、インフュージョンリアクション、心筋炎、重症筋無力症、脳炎・髄膜炎)ごとに対策アルゴリズムを作成しています。このアルゴリズムには副作用の身体所見、検査所見に関する要点と他科受診時に迅速な対応ができるよう必要な検査を加え、irAEに対する薬剤の種類や投与量を統一しています。また、Grade毎に具体的な治療を明記し、irAEの徴候が認められた場合は、重症度に応じて専門医にコンサルトすることを推奨しています。

その他、ICI以外の取り組みとしては、注射抗がん薬の血管外漏出時の対策アルゴリズムや患者教育用資材(がん治療薬による副作用を少なくする方法を学びましょう)の作成や改訂などにも取り組んでいます。

用語解説

支持療法 : 最も広く行われている精神療法の一つで、患者の精神的・肉体的なケアのことを指す。不安や緊張、恐怖といった症状を取り除き、心理的な安定と適応の改善をはかる療法。
ICI : 免疫療法のひとつ。がん細胞により抑制されていた免疫機能を活性化させる。
irAE : 免疫関連有害事象
間質性肺炎 : 肺にある間質と呼ばれる組織に炎症を生じる疾患の総称。