九州大学病院のがん診療

縦隔腫瘍

外科的治療

縦隔には様々な種類の腫瘍ができますが、縦隔は周囲に心臓や大血管が存在し、アプローチも難しいことより、検査で確定診断をつけることが難しい場所です。従って、良性腫瘍か悪性腫瘍かの判断を含めて、手術で切除するまでは、はっきりとした診断が得られないことが多いのが現状です。

通常の縦隔腫瘍(胚細胞腫瘍、リンパ性腫瘍を除く)は、手術で取り除くことが勧められます。良性腫瘍であっても、次第に大きくなり、周囲の重要な臓器(心臓、食道、気管など)を圧迫すると、重篤な症状がでることがあります。

2017年の日本胸部外科学会の全国集計によりますと、外科治療の対象となった縦隔腫瘍は①胸腺腫(40%)、②先天性嚢種(20%)、③神経原性腫瘍(10%)、④胸腺癌(7%)、⑤リンパ性腫瘍(4%)、⑥その他(16%)でした。以下、上位3種の縦隔腫瘍について個別に説明します。

胸腺腫

「胸腺腫」は、「胸腺」という胸の臓器にできる腫瘍の一種です。一般的に大きくなるスピードは遅いですが、周囲の臓器に広がる性質があり、進行すると肺などに転移を起こすこともあります。そのため、胸腺腫はごく小さなものを除き、手術で取り除くことが勧められます。
また、胸腺腫と一緒に、「重症筋無力症」という、筋肉に力が入りにくくなる病気などが起こる場合があります。
腫瘍が小さい場合は、腫瘍だけを取り除くこともありますが、腫瘍が大きい場合や重症筋無力症がある場合は、胸腺を全部取り除く必要があります。小さな傷で行う胸腔鏡手術と、胸の前を切って手術を行う方法(胸骨正中切開法)があります。近年は、手術支援ロボットを使用した手術も行っています。

先天性嚢腫

先天性嚢腫(嚢胞)はいくつか種類がありますが、気管支から発生する気管支嚢胞や、心臓を包んでいる膜から発生するから心膜嚢胞が、多くを占めます。いずれも、ほとんどの場合は良性腫瘍ですので、CT検査やMRI検査でこれらの嚢胞の可能性が高ければ、経過観察を行うことがあります。手術が行われるのは、次第に大きくなる場合、悪性の疑いがある場合、すでに大きくて周囲の臓器を圧迫する場合などです。手術方法は、ほとんどの症例で胸腔鏡手術で嚢胞を摘出します。

神経原性腫瘍

胸部に発生する神経原性腫瘍は、背骨の近傍に発生することが多いです。多くの場合は良性腫瘍ですが、ごくまれに悪性のことがあります。良性であっても、次第に大きくなって脊椎の中に入って行き脊髄神経を圧迫する場合もありますので、見つかれば手術で取り除くことが勧められます。手術の多くは、胸腔鏡手術で腫瘍を摘出します。ただし、胸椎の近くに発生し椎間孔(重要な神経の通り道)内へ進展している場合には、整形外科との合同での手術が必要となります。

用語解説

胚細胞腫瘍 : 精子や卵子になる前の細胞から発生した腫瘍の総称。良性腫瘍と悪性腫瘍がある
胸腺腫 : 成人になって退化した胸腺の細胞から発生する腫瘍。良性胸腺腫と悪性胸腺腫とに分類される
神経原性腫瘍 : 交感神経などの神経から発生する腫瘍
CT : コンピュータ断層法。身体の横断断層を撮影する特殊なX線装置
MRI : 強い磁石と磁気を利用して体の内部を検査する機器