九州大学病院のがん診療

縦隔腫瘍

放射線治療

縦隔腫瘍のうち、悪性リンパ腫胸腺腫、胸腺癌、胚細胞腫瘍、甲状腺腫瘍などが放射線治療の対象になります。組織型によって治療法や予後が異なります。この中で放射線治療の適応となることが多いものは、胸腺腫、胸腺癌、悪性リンパ腫、胚細胞性腫瘍などです。ここでは、縦隔腫瘍に対する放射線治療の方法を述べるとともに、上記のような代表的疾患に対する放射線治療について簡単に紹介します。

縦隔腫瘍に対して行われる放射線治療は、体の外から放射線を照射する「外部照射法」という方法を用います。一般には、リニアックという治療装置を使ってエネルギーの高いエックス線(高エネルギーX線)を患部へ照射します。手術をまず行った場合で、腫瘍を摘出した後に肉眼的または顕微鏡的残存病変が疑われる場合には術後照射を行います、手術を行わない場合には、放射線治療単独または化学療法と併用して放射線治療で治療します。どのように照射するか(範囲や方向など)、どの程度照射するか(1回量や回数など)は、治療計画専用のCTを撮影後、専用の3次元放射線治療計画コンピューターを用いて計画します。最終的には、治療の目的や腫瘍の制御、正常臓器への副作用のリスク(肺臓炎、食道炎、心外膜炎、脊髄炎など)などを総合的に勘案して決定します。

胸腺腫

非浸潤型(腫瘍が完全に胸腺の被膜の内側にとどまっている)の場合には、手術で完全に摘出してしまえば、放射線治療を行う必要はありません。一方,浸潤型(腫瘍が胸腺の被膜を越えてまわりの組織に浸み出ている)の場合には,肉眼的に腫瘍を摘出するだけでは治癒が見込めませんので、術後に放射線治療(術後照射)を行います。術後照射の場合には、もともと腫瘍があった部分(腫瘍床と呼びます)とその周囲に、1日1回1.8-2.0グレイ、総線量で40-50グレイ(20-25回)程度を照射します。肉眼的に腫瘍が残っている部分があれば、その部分に範囲を縮小して10-20グレイ(5回)を追加して照射します。胸腺がんに対しても基本的には同様な考え方で治療を行います。腫瘍が原発巣と離れて胸腔の中に播種していたり、周囲の臓器に広く浸潤していて手術ができない場合には、通常、化学療法との併用で放射線治療を行います。病状によって同時に併用する場合と化学療法を先に行って、腫瘍を小さくしてから放射線治療を行う場合とがあります。放射線治療は、1日1回1.8-2.0グレイで、50-60グレイ(25-30回)程度を行います。

悪性リンパ腫

通常は、先に化学療法を3-6クール程度した後に行います。リンパ腫は放射線がよく効くタイプの腫瘍ですので、化学療法後で腫瘍がほぼ消失していれば、30グレイ(15-20回)程度の照射でコントロールできます。もし、腫瘍が明らかに残っている場合には40-50グレイ(20-25回)程度の照射が必要となります。

胚細胞性腫瘍

セミノーマとそれ以外のものに大きく分けて治療方針を考える必要があります。セミノーマに関しては、リンパ腫と同様に放射線治療がよく効くタイプの腫瘍ですので、放射線治療単独の場合で30-40グレイ(15-20回)程度、化学療法が先に行われている場合には、20-30グレイ(10-15回)程度の治療を行います。セミノーマ以外の腫瘍では、先に化学療法をしっかり行っても、50グレイ(25回)以上の照射が必要です。

以上のように、縦隔腫瘍といってもさまざまな性質の異なる腫瘍が含まれていますので、腫瘍のタイプに応じて治療法を選択して行っています。

用語解説
悪性リンパ腫 : リンパ系組織から発生する悪性腫瘍
胸腺腫 : 成人になって退化した胸腺の細胞から発生する腫瘍。良性胸腺腫と悪性胸腺腫とに分類される
胚細胞腫瘍 : 精子や卵子になる前の細胞から発生した腫瘍の総称。良性腫瘍と悪性腫瘍がある
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
CT : コンピュータ断層法。身体の横断断層を撮影する特殊なX線装置
肺臓炎 : 肺胞壁、細気管支、細動脈周囲など肺の支持組織の炎症性病変を示す疾患群
播種 : 癌細胞が体の中で散らばった状態
セミノーマ : 精上皮腫。精巣に発生する悪性腫瘍