がんセンターについて

部門紹介

がんゲノム医療・がん遺伝子パネル検査とは

がんは、正常な細胞にさまざまな原因で遺伝子の異常が積み重なることで発生します。近年、がんの発症や進行に関わる遺伝子異常が少しずつわかってきており、いくつかの遺伝子異常に対しては治療薬も開発されています(図1)。通常の診療でも、がんの遺伝子変異を解析してがんの薬物療法の有効性を判断することが広く行われてきましたが、解析される遺伝子の数には限りがありました。がん遺伝子パネル検査では、手術や生検で取り出した患者さんのがんの一部を使用してがんに関わる数百に及ぶ遺伝子を調べ、患者さんのがんがもつ遺伝子異常を調べる検査です。検査結果をもとに、適切な薬剤や治療法、参加できる可能性がある臨床試験・治験の有無を専門家チーム(エキスパートパネル)で検討し、その結果をお伝えします。

がん遺伝子パネル検査の利点と限界

がんにかかわる遣伝子の研究は日進月歩であり、その結果の解釈も複雑なため、専門家が最新かつ確かな情報を用いて検討します。しかし、それでも、がんの治療に役立つ情報が得られない可能性は残ります。この検査を受けた方のうち、検査結果に基づいた治療が受けられるのは、約8%に留まる(日本国内における2019年9月〜2020年8月の実績:厚生労働省調査)と想定されます。つまり、約92%の患者さんはこの検査を受けても、検査結果ががんの治療に直接つながらない可能性がありますが、この確率は検査する時期やがん種によって異なります。解析に用いた検体の品質や量によっては、解析自体が不成功に終わる可能性があります。また、適した薬剤が見つかった場合でも、以下のような場合には、治療法として選択できないことがあります。

・日本国内では販売が承認されていない薬剤の場合
・あなたのがんへの適応が認められていない薬剤の場合
・あなたが参加条件を満たさない臨床試験・治験でのみ使用されている薬剤の場合など

九州大学病院のがん遺伝子パネル検査

現在、がん遺伝子パネル検査を実施できる施設は限られており、厚生労働省に指定されたがんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院のみで検査が可能です。九州大学病院は九州地区のがんゲノム医療中核拠点病院として、がんゲノム医療、がん遺伝子パネル検査に取り組んでいます。
九州大学病院では2022年7月1日〜2023年6月30日の間で233名の患者さんががん遺伝子パネル検査を受けました。そのうち、がん遺伝子パネル検査に基づいた推奨治療が提案され、それを実施した方は11例(4.7%)でした。(図2)

◎対象となる方・実施までの流れ
がんの薬物療法を受けている方が対象です。保険診療の中でがん遺伝子パネル検査を実施することが可能です。病状によって検査の対象となるかどうか変わるため、検査を希望される場合はご相談ください。
 ・当院受診中の方
  がん診療に関わる各診療科で検査を行うことが可能です。主治医にご相談ください。
 ・当院以外の病院を受診中の方
  がんゲノム外来を通じて検査に関する相談を受け付けています。相談の手順は下のwebページをご参照ください。
がんゲノム外来
https://www.hosp.kyushu-u.ac.jp/gairai/gangenome_gairai/

がんゲノム外来では、がんを専門とする医師が、がん遺伝子パネル検査についてご説明します。さらに、患者さんの主治医による診療情報をもとに、がん遺伝子パネル検査の意義や、検査の結果によって治療の選択肢が増える可能性などについて助言を行い、患者さんががん遺伝子パネル検査を受けるかどうか決定するためのお手伝いをします。
原則として、ご本人の受診が必要です。同意書をお持ちになれば、ご家族だけでも受診は可能です。患者さんが未成年の場合は、続柄を確認できる書類(健康保険証など)をお持ちください。対象となるがんの種類や年齢などは、がん遺伝子パネル検査の種類によって異なります。

がんに関する遺伝の情報(遺伝性腫瘍)が判明する可能性について

この検査では、患者さんのがん細胞の特徴を調べるために、様々な遺伝子を隅々に渡って調べます。その過程で、患者さんのがんの治療に役立つ情報の有無とは別に、がんが、患者さんご本人の生まれ持った体質と関連している可能性(遺伝性腫瘍)が、数%程度の確率で判明する、あるいは疑われることがあります。
予防法や治療法が存在するなど、患者さんご本人や患者さんの血縁者の健康管理に有益な結果はお知らせしたいと考えていますが、患者さんご本人のご希望を尊重します。当院の臨床遺伝医療部の認定遺伝カウンセラー®に相談していただくことも可能です。