九州大学病院のがん診療

乳がん

外科的治療

乳がんの手術治療(初期治療の手術)は、乳房への乳房温存手術あるいは乳房切除術が選択されます。乳房温存手術が不可能で乳房切除術が行われた場合、乳房再建を追加する選択肢もあります。また、腋窩リンパ節(わきの下)に対しては、センチネル(見張り)リンパ節生検や腋窩リンパ節郭清を行います。

1.乳房温存手術あるいは乳房切除術について

現在の乳がん手術には、①局所のがんを取り除く治療、②病理結果からがんの性質を知る検査、という2つの意味があり、その標準的な術式は、乳房温存手術、あるいは乳房切除術です。乳房温存手術は、乳房を部分的に切除し(大胸筋と小胸筋も残して)がんを取り除く方法で、乳房切除術は、大胸筋と小胸筋は残して、乳房全体を切除する方法です。乳房温存療法(術後に残存した乳房への放射線療法も併用した場合)が、乳房切除術と同等の治療成績が得られることが示されました。日本においても1990年代から乳房温存手術が行われるようになり、2000年代に入ると50%以上の初期乳がん患者さんに乳房温存手術が行われるようになりました。しかし、乳房温存手術ではがんを取り残さないことが大前提であり、がんの広がりが大きい場合には、乳房温存手術は適さず、乳房切除術が選択されます。九州大学病院では、病状(ステージ、しこりの大きさや広がりなど)を手術前検査(エコー、CTMRI針生検、細胞診)により充分に把握し、乳房温存手術と乳房切除術の利点と欠点をご説明し、患者さんのご希望(preference)等を相談しながら、ひとりひとりに最適な術式を提案します。

2.乳房温存手術がすすめられる病気の状態(適応)について

乳房温存手術は、ステージⅡ期(しこりの大きさは3cm以下)までの人にお勧めできる手術です。また、非浸潤性乳管がんの人でも選択肢の一つになります。乳房温存手術を受けた場合には、術後に適切な放射線療法を行うことが重要(原則として必須)です。乳房温存療法とは、乳房温存手術と温存乳房への手術後の放射線治療を組み合わせた治療法のことで、温存手術のみや放射線治療のみの治療はお勧めできません。乳房温存手術に適したしこりの大きさは、日本のガイドラインでは3cm以下と考えられています。しかしながら、がんを完全に取りきることができて、見栄えも良好な手術が可能と判断された場合は、3cmを超えるしこりに対しても乳房温存手術を行う場合があります。逆に、以下①から⑤のいずれかに該当する場合は、乳房温存手術の適応とならず、乳房切除術をお勧めします。(①2つ以上のがんのしこりが、同じ側の乳房の離れた場所にある場合、②乳がんが広範囲にわたって広がっている場合、③温存乳房への放射線治療が行えない場合(妊娠中、放射線治療の既往、膠原病の合併等)、④しこりの大きさと乳房の大きさのバランスから美容的な仕上がりがよくないと考えられる場合、⑤患者さんが乳房温存手術を希望されない場合)

3.センチネルリンパ節生検について

画像診断や触診などで腋窩リンパ節への転移がなさそうだと判断された場合は、センチネルリンパ節生検を行います。そして、センチネルリンパ節に顕微鏡検査で転移がなければ、リンパ節の郭清を省略することが可能です。センチネルリンパ節生検とは、腋窩リンパ節の中で最初にがん細胞がたどり着くと考えられるリンパ節(センチネルリンパ節)を摘出し、がん細胞があるかどうか(転移の有無)を顕微鏡で調べる検査です。九州大学病院では、センチネルリンパ節を、放射線同位元素(わずかな放射線を発する物質、アイソトープ)および色素を併用して同定(見つけだすこと)しています。放射線同位元素のみや色素のみを用いてセンチネルリンパ節を同定するよりも、両者を併用する方法がより適していると、乳がん診療ガイドラインにも述べられています。具体的には、手術前日に乳輪に微量の放射線同位元素を注射し、また手術直前に色素を注射し、放射線が検出されたり、色に染まったりしたリンパ節(センチネルリンパ節)を摘出して、転移の有無を手術中(約30分程度)に、病理の専門の医師が、顕微鏡で調べます。センチネルリンパ節にがん細胞がなければ、それ以外のリンパ節にもほぼ転移がないと判断できますので、腋窩リンパ節郭清を省略できます。一方、センチネルリンパ節に転移がある場合は、原則腋窩リンパ節郭清を行う必要があります(4参照)。

4.腋窩リンパ節郭清について

手術前に腋窩リンパ節(わきの下)に転移があると診断された場合は、腋窩リンパ節郭清を行います。
一方、手術前に腋窩リンパ節に転移がないか、または疑いと診断された場合は、まずセンチネルリンパ節生検(3参照)を行い、センチネルリンパ節への転移の有無を調べます。転移があった場合は腋窩リンパ節郭清を行います。リンパ節郭清とは、リンパ節が含まれる脂肪をひとかたまりに切除することです。切除後に脂肪の中に埋まっているリンパ節を取り出して転移の有無を病理検査で調べます。腋窩リンパ節を郭清する意味は2つあります。1つは腋窩リンパ節への転移の有無、およびリンパ節の転移の個数を調べるという「診断」の目的です。もう1つは、再発を防ぐという「治療」の目的です。リンパ節郭清を行うことでリンパ節の転移の個数がわかり、転移個数に応じ、再発の危険性が高くなるため、術後の治療方針を決めるうえで腋窩リンパ節郭清は重要な方法です。

5.乳房再建について

乳房再建とは、乳房温存手術が不可能で乳房切除術が行われた場合、手術によって失われた乳房を乳腺外科医と形成外科医が連携して再建する方法で、現在保険診療となりました。乳房再建の方法については、①組織拡張器(エキスパンダー)を用いた人工乳房による再建、②自家組織による再建があります。乳房を再建することにより、温泉に入れない、バランスが悪い等の精神面や肉体面の問題が改善する可能性があります。また乳房を再建することで再発が増えたり、再発の診断に影響したりすることはありません。また、乳がん手術の後からでも再建手術を行うことは可能ですし、乳がんの進行の程度によっては、別の時期に再建手術を行うことが望ましい場合もあります。①組織拡張器(エキスパンダー)を用いた人工乳房による再建乳がん手術と同時に、エキスパンダーという皮膚を伸ばす袋を胸の筋肉の下に入れて、その袋の中に生理的食塩水を徐々に入れて皮膚を伸ばし乳房の形に膨らませます。その後、エキスパンダーを人工乳房(シリコンでできたもの)に入れ替えるという方法です。乳房切除術の時にできた傷で再建の手術を行いますので、新たに傷はできません。人工乳房は非常に安全でその後の検診にも影響しません。しかし感染を起こした場合は、エキスパンダーや人工乳房をいったん取り除いて感染を治療し、感染が完治しないと再建を再開できません。②自家組織による再建は患者さんの体の一部の組織を胸に移植する方法で、お腹の組織を移植する方法(腹直筋皮弁法)と、背中の組織を移植する方法(広背筋皮弁法)があります。腹直筋皮弁法ではお腹の筋肉を一部取るので、腹筋が弱くなり、腹壁瘢痕ヘルニアを起こす場合があります。お腹の手術を受けた方や、将来妊娠・出産を予定されている方には適していません。広背筋皮弁法は将来妊娠・出産を予定されている方にも可能で、しばらく使われなくなった筋肉が時間とともに萎縮(廃用性萎縮)し、再建した乳房が小さくなることを加味して形成されます。

参考書

  1. 日本乳癌学会/編:乳癌診療ガイドライン1治療編2015年版、金原出版株式会社、2015
  2. 日本乳癌学会/編:患者さんのための乳がん診療ガイドライン2016年版、金原出版株式会社、2016
  3. 標準的な乳房温存療法の実施要項の研究班/編:患者さんのための乳房温存療法ガイドライン、金原出版株式会社、2005
  4. Jay R. Harris 他:Diseases of the Breast(14版)、2009
用語解説

センチネルリンパ節 : がんの転移をおこす際に、一番最初に到達するリンパ節
CT : コンピュータ断層法。身体の横断断層を撮影する特殊なX線装置
MRI : 強い磁石と磁気を利用して体の内部を検査する機器
針生検 : 針を用いて肝臓などの体内臓器を穿刺して組織を採取する方法
皮弁 : 血流のある皮膚・皮下組織や深部組織のこと