九州大学病院のがん診療

卵巣がん

診断

卵巣腫瘍には良性、境界悪性、悪性(がん)の3種類があり、その診断は原則的に病理組織検査で行われます。このため手術前にがんの診断をするには、腫瘍の一部を採取しなければなりません。他臓器のがんでは手術前に腫瘍から直接組織を採取できるものもありますが、卵巣はお腹の中(腹腔内)にある臓器で周囲には小腸、大腸、子宮などがあり、直接針を刺して組織を採取することは困難です。またうまく採取できても悪性(がん)であった場合には、針を刺すことでがん細胞を腹腔内にばらまく可能性が高くなります。したがって、明らかな転移がある場合などを除いて卵巣がんは手術前に診断することは困難で、様々な検査から総合的に悪性の可能性が高いのかどうかを推定してから手術を行い、術中もしくは術後に行う病理組織検査で初めて、良性か悪性かの診断がつくことになります。

画像診断

超音波検査CT検査・MRI検査等の画像診断で腫瘍の大きさや特徴を検査します。良性卵巣腫瘍の場合は腫瘍の内容が漿液・粘液・血液などの液体や脂肪等が中に溜まって、袋状に腫れていることが多いのに対し、卵巣がんの場合には液体の他に充実部と呼ばれる細胞が集塊した部分を認めることが多いのが特徴です。また腹水や胸水の有無や転移巣の有無等、がんの拡がりも調べます。

腫瘍マーカー

卵巣腫瘍が良性か悪性かの推定に腫瘍マーカーの血液検査は有用です。CA125、CA19-9、CEA等が主な腫瘍マーカーで、これらが異常に高値の場合には悪性の可能性が高くなります。腫瘍マーカーは診断にも有用ですが、治療前に高値を示した腫瘍マーカーは治療中・治療後も繰り返し検査して、治療効果の判定や再発のチェックにも利用します。

腹水細胞診検査・胸水細胞診検査

腹水や胸水が溜まっている場合には、これらを一部採取してがん細胞の有無を調べると、手術前に卵巣がんの診断がつく場合があります。

術中迅速組織診

手術中に行う組織検査で、手術で取れた卵巣腫瘍を瞬間的に凍らせて、顕微鏡で検査できる標本に加工し、がん組織の有無を検査します。当院ではこの検査を行い、手術内容(術式)を最終決定しています。

術後組織診

手術時に摘出した卵巣、子宮、大網、リンパ節等を術後に顕微鏡で詳しく検査し、がん病巣の有無や拡がりを調べます。まれに、術中迅速組織診の内容が術後組織診で変更になる場合があります。つまり、可能性が少ないながら手術中は良性もしくは境界悪性と診断されていた腫瘍が、術後に悪性(がん)に診断が変わることがあります。

その他

卵巣がんは約12〜15%にBRCAという遺伝子に変異があると報告されています。このBRCA遺伝子変異を有する卵巣がん患者さんはPARP阻害薬という薬が効きやすい可能性があります。そういった背景から、進行卵巣がん(FIGO進行期分類Ⅲ〜Ⅳ期)と診断された患者さんではがんの組織で遺伝子検査を行い、プラチナ製剤を含む初回化学療法が奏効した場合にPARP阻害剤を含む維持療法の薬剤選択のために活用します。また、初回手術が難しい患者さんの場合に化学療法を先に行うことがありますが、治療開始前に腹腔鏡手術を行い遺伝子検査用の組織を採取することがあります。一方で、がん組織でBRCA遺伝子変異が見つかった場合は患者さん本人やご家族が遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と呼ばれる乳がんや卵巣がんになりやすい状態の可能性があります。そのため、BRCA遺伝子変異があればHBOCについて遺伝カウンセリングを実施する方針としています。

卵巣がんの進行期分類(日産婦2014、FIGO2014)

Ⅰ期:がんが片側あるいは両側の卵巣だけにとどまっているもの
 ⅠA期:がんが一側の卵巣に限局するもの
 ⅠB期:がんが両側の卵巣に限局するもの
 ⅠC期:がんは一側または両側の卵巣に限局し、以下のいずれかを認めるもの
  ⅠC1期:手術操作による被膜破綻
  ⅠC2期:自然被膜破綻あるいは被膜(外層)表面への浸潤
  ⅠC3期:腹水または腹腔洗浄液の細胞診にて悪性細胞が認められるもの

Ⅱ期:がんが一側または両側の卵巣に存在し、さらに骨盤内への進展を認めるもの
 ⅡA期:がんが子宮ならびに/あるいは卵管に及ぶもの
 ⅡB期:がんが他の骨盤内臓器に進展するもの

Ⅲ期:がんが一側または両側の卵巣に存在し、さらに骨盤外(上腹部)の腹膜播種ならびに/あるいは後腹膜リンパ節転移を認めるもの
 ⅢA1期:後腹膜リンパ節転移のみを認めるもの
  ⅢA1(i)期:転移最大径10mm以下
  ⅢA1(ii)期:転移最大径10mmを超える
 ⅢA2期:後腹膜リンパ節転移の有無にかかわらず、骨盤外に顕微鏡的播腫を認めるもの
 ⅢB 期:後腹膜リンパ節転移の有無にかかわらず、最大径2cm以下の腹腔内播種を認めるもの
 ⅢC 期:後腹膜リンパ節転移の有無にかかわらず、最大径2cmを超える腹腔内播種を認めるもの

Ⅳ期:腹膜播種を除く遠隔転移を認めるもの
 ⅣA:胸水中に悪性細胞を認めるもの
 ⅣB:実質転移ならびに腹腔外臓器(鼠径リンパ節ならびに腹腔外リンパ節を含む)に転移を認めるもの

用語解説

超音波検査 : 超音波を当て、反射する反射波を画像処理し臓器の状態を調べる検査
CT : コンピュータ断層法。身体の横断断層を撮影する特殊なX線装置
MRI : 強い磁石と磁気を利用して体の内部を検査する機器
腫瘍マーカー : 血中濃度や尿中濃度を調べることにより腫瘍の有無や場所の診断に用いられる物質の総称

化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法。
播種 : 癌細胞が体の中で散らばった状態