九州大学病院のがん診療

膀胱がん

院内がん登録情報

2018年から2022年に九州大学病院に来院され膀胱がんの診断を受けられた患者さんは337例であり、これらの患者さんに対して九州大学病院で行われた治療内容について説明します。膀胱がんは、UICCあるいは本邦の腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約により、ステージ0a、0is、Ⅰ〜Ⅳの臨床病期(治療開始前の病気の進行度)に分類されています。
図1は、当院にて診断された膀胱がん症例を臨床病期ごとに分類したものです。最も早期の膀胱がんであるステージ0a(がんが粘膜内にあり、転移のない状態)が125例と全体の37.1%を占めており、膀胱上皮内癌である0is期の17例(5%)と粘膜下組織までの浸潤にとどまるI期の97例(28.8%)を含めると、膀胱がん患者さんの多くが早期がんの状態で発見されていることがわかります。
図2に示すのは、膀胱がんが発覚した契機の一覧です。ピンクで示される「その他・不明」の内訳の大半は肉眼的血尿(目で見てわかる血のまざった尿)です。膀胱がんにおける血尿は痛みなどの症状を伴わないことが多く、短期間で自然とおさまったりすることが特徴とされています。
ステージ0aの治療法を見ると(図3)、119例が内視鏡手術(TURBT)と膀胱内薬物注入だけで治療されていて、残りの多くの患者さんも何らかの手術治療を受けています。また、粘膜下まで浸潤するものの筋肉層まで広がらないⅠ期の患者さんも多くはTURBTと薬物療法を受けています。ステージ0aの場合の膀胱内薬物注入の場合は、抗がん剤の注入療法が中心となりますが、ステージⅠの場合の薬物注入療法はBCGの注入が中心となります。また、このⅠ期の症例では、本当に筋層までがんが広がっていないか、また1回目のTURBTでがんの残存がないか確認するため数週間の間隔で再度TURBTを行っています(2nd TURBT)。一方、筋層まで浸潤するが転移のないⅡ期、筋層を超えて広がるが転移のないⅢ期の患者さんはそれぞれ66例、22例であり、図3に示すように多くの方が外科手術、すなわち膀胱全摘除術を受けています。膀胱全摘除術は最近では腹腔鏡手術、さらに2018年からはロボット支援腹腔鏡下手術を実施することがほとんどであり、患者さんの身体負担が従来の開腹手術に比べて軽減されています。このステージの患者さんに膀胱全摘除術を予定する場合には、その治療効果を高めるために手術前に抗がん剤を投与する術前補助化学療法や、手術後に病理組織検査結果から再発のリスクが高いと思われる患者さんに対して抗がん剤を投与する術後補助療法が行われることがあります。さらに転移のあるⅣ期の患者さんは、経尿道的手術(TURBT)で病理学的に膀胱がんであることを確認した後、薬物療法(抗がん剤や疫チェックポイント阻害薬)を受けています。また、転移による痛みや血尿などの症状の緩和を主な目的として、手術療法や放射線照射が行われることもあります。
図4では、ステージ別に治療後の全生存率を示します。これは治療開始からどれくらいの期間で、どれくらいの患者さんが生存していたかを示した図です(生存曲線といいます)。横軸の単位は月で、縦軸は生存率を示していますので、0か月(治療開始)の時点では生存率は1.0(=100%)となり、全ての患者さんが生存しています。しかし、30か月の時点をみてみると生存率が約0.2から0.8程度まで様々であり、その時点で80%の患者さんが生存していたステージもあれば、約20%の患者さんしか生存できなかったステージもあるということになります。このようにステージ0からIまでの筋層浸潤のない膀胱がんの患者さんと、筋層浸潤がんであるステージⅡやⅢの患者さん、転移性がんであるステージⅣの患者さんでは生存率に違いがあることがわかります。

以上のように、膀胱がんはそれぞれの臨床病期に応じた標準的な治療があり、原則として標準治療をお勧めしながら、患者さんの全身状態やご希望を考慮して治療を行っています。

用語解説

病期 : 疾病の経過をその特徴によって区分した時期
BCG : 結核予防用のワクチン
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
免疫チェックポイント阻害薬 : 免疫療法のひとつ。がん細胞により抑制されていた免疫機能を活性化させる

膀胱 2018-2022年症例のうち癌腫のみ(悪性リンパ腫、肉腫等を除く)治療前・UICCステージ

UICCについて集計を行った。
※症例20:自施設で診断され、自施設で初回治療を開始(経過観察も含む)
 症例21:自施設で診断され、自施設で初回治療を継続(経過観察も含む)
 症例30:他施設で診断され、自施設で初回治療を開始(経過観察も含む)
 症例31:他施設で診断され、自施設で初回治療を継続(経過観察も含む)
※図4の生存曲線は全生存率として集計(がん以外の死因も含む)

図1 ステージ別症例数(症例20、21、30、31)

図2 ステージ別発見経緯(症例20、21、30、31)

図3 ステージ別治療法(症例20、21、30、31)※重複あり

図4 Kaplan-Meier生存曲線(膀胱)