九州大学病院のがん診療

骨軟部腫瘍

外科的治療

悪性骨軟部腫瘍の治療においては、抗がん剤や放射線治療のみで根治可能な腫瘍がほとんどないため、切除が基本と考えられています。腫瘍の診断によって切除方法が変わります。一般に、良性骨腫瘍では掻爬(内部を掻き出すこと)した後に骨移植を行います。良性軟部腫瘍では腫瘍のみを切除します。一方、悪性腫瘍の場合には再発の危険性が高くなるため、腫瘍を健常な組織で包んで一塊として切除する必要があります。このような切除方法を、広範切除といいます。

以前は、四肢にできた悪性骨軟部腫瘍の治療で切断術を行うことも多かったのですが、最近では多くの患者さんで広範切除を行い、人工関節などで再建することによって切断をせずに手足が残せるようになってきています(患肢温存手術)。手術前に腫瘍を小さくする目的で術前化学療法や術前放射線療法を行うことがあります。また、外科手術の進歩により以前は切除が困難と考えられていた脊椎や胸壁、骨盤といった部位においても、治療可能となる場合もみられるようになってきています。当院ではCT画像を用いたナビゲーションシステムを使用しています。対象となるのは従来の方法では安全な切除ができないと考えられるような難しい手術ですが、正確な切除が可能になるばかりでなく出血量を低下させるなどの効果もみられています。

患肢温存手術では、切除後に生じた組織の欠損を種々の方法で再建する必要があります。骨切除後には、人工関節、自家骨(他の部位から骨を移植する)、処理骨(切除した骨を処理して腫瘍を死滅させて欠損部に戻す)、人工骨などにより再建します。成長期に発生した大腿骨腫瘍の切除時には、その後の成長に対して延長可能なカスタムメイドの人工関節を用いて再建することもあります。一方、脊椎周囲では切除により脊椎の支持性が低下することもあり、脊椎インストゥルメントと呼ばれる専用の固定材料を用いて脊柱を再建することも行っています。
再建は整形外科以外の科と協力して行うこともあります。皮膚を合併切除した場合には、形成外科により別の部位から皮膚を移植したり(植皮)、血管を付けた皮膚や筋肉を移植したり(皮弁)することもあります。大きな骨欠損に対する骨移植として、骨の生存に必要な血管ごと移植する、血管柄付き骨移植も行っています。さらに、主要な血管の切除が必要な場合には、患肢温存のために自分の静脈や人工血管などを用いて血管の再建も行います。これらの軟部組織や血管の再建の際には、顕微鏡下手術(マイクロサージャリー)を行うこともあり、高度な技術が必要です。当院では形成外科や血管外科グループと共同で高度な再建を行うことによってより良い術後の機能の回復を目指しており、良好な治療成績が得られています。

骨軟部腫瘍の治療の難しさとして、患者さん一人一人で腫瘍の存在する場所や拡がりが異なる点、さらにたくさんの種類の腫瘍があり、それぞれに適切な治療法が異なっていることなどが挙げられます。外科的治療に際しては、十分な画像診断と綿密な手術計画が重要となります。当院では、日本整形外科学会により認定を受けた専門医(骨軟部腫瘍医)や、がん治療認定医が中心となり、多職種で連携を行いつつ骨軟部腫瘍の手術を行っております。患肢温存率は95%以上を維持しており、高度な医療が提供可能です。

用語解説

化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
CT : コンピュータ断層法。身体の横断断層を撮影する特殊なX線装置。
マイクロサージャリー : 手術用顕微鏡と微小手術器具とを用いて行う手術。