九州大学病院のがん診療

骨軟部腫瘍

放射線治療

骨軟部腫瘍は一部の腫瘍を除き、放射線感受性が低いものが多く、通常のX線による放射線治療のみでの根治はあまり期待できません。しかし、通常の手術・化学療法だけでは患肢温存が難しい場合に可能な限り患肢を温存するために、補助療法として術前あるいは術後に放射線治療を行います。また、全身状態不良な場合や切除困難な部位に腫瘍が存在するために手術困難な場合にも、放射線治療を行うことは可能です。さらに、根治が難しい場合でも、腫瘍による疼痛や麻痺等の症状緩和目的で、放射線治療を行っています。疼痛に関しては約7〜8割のケースで症状の緩和が得られます。

近年では新たな技術を用いた高精度放射線治療も拡大してきています。このうち強度変調放射線治療(IMRT)では複雑な照射範囲を規定することで病変の近くにある正常臓器への影響を低減することや、病変部の線量を高めて治療強度を部分的に上げることが可能です。また体幹部定位放射線治療(SBRT)は高精度に病変部へピンポイント照射する放射線治療で、病変部に高線量を照射することで治療強度を高める事が可能です。定位放射線治療は適応となる疾患や条件が限られていますが、転移性脊椎腫瘍に対しては保険適応が追加され、当院でも施行件数が増加しています。

図に大腿遠位部の軟部腫瘍に対する術前治療の照射野の例と、脊椎病変に対する定位放射線治療の照射野の例を示します。照射は1日1回、週5回行い、線量は組織型や照射目的により異なります。根治目的の場合、通常1回2Gy(グレイ)、総線量60〜70Gy程度(約2ヶ月間)を行うのが一般的です。緩和目的の場合、1回3Gy、総線量30Gy程度(約2週間)の治療を行います。定位放射線治療の場合は1回4.5〜7Gyと高線量で、総線量35〜45Gy程度(約1週間)の治療を行います。1日の照射時間は2〜3分程度で、痛みや熱さを感じることはありません。

放射線治療の副作用は、大きく急性期有害事象晩期有害事象に分けられます。急性期有害事象としては、照射野に一致した皮膚炎、脱毛、術後の創治癒遷延などを生じることがあります。晩期有害事象としては皮膚のびらん・潰瘍、骨壊死、骨折、骨および軟骨組織の成長・発達異常、側彎、関節拘縮、リンパ浮腫、二次癌の発生などの可能性が考えられますが、これらのうち重篤な副作用が生じる頻度は低く、からだへの負担が少ないことが放射線治療の特徴です。またX線と異なる放射線治療として重粒子線治療が普及しつつあります。手術不可能な部位にあるなど今まで根治が難しかった骨軟部腫瘍の一部で根治が期待できるようになっています。しかし、治療を受けられる施設が少ないことや、保険適応が「悪性であること、手術困難であること、転移がないこと」に限られていること、照射範囲に限りがあることなどの制約があります。また照射部位に近接する臓器へのダメージも大きく、骨に近い場合は難治性の骨折を起こしたり、腸に近い場合は照射前に腫瘍と腸の間にスペーサーを留置する手術が必要になったりするなど、さまざまな診療科が関わって合併症をサポートしていくことが必要です。九州大学病院では九州唯一の粒子線治療施設(2023年10月現在)である九州国際重粒子線がん治療センター(サガハイマット;佐賀県鳥栖市)と定期的にカンファレンスを行うなど緊密な連携体制をとっており、患者さんにとってより良い医療の選択肢を提供しています。

用語解説
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
急性期有害事象 : 放射線治療期間中および照射終了1ヶ月程度までに発生してくる障害
晩期有害事象 : 治療が終了後約3か月以降に発生してくる障害
重粒子線治療 : 重粒子線を使い、がん細胞だけを集中して照射する治療