九州大学病院のがん診療

胃がん

Q&A

  • 胃がんにかかるとどのような症状が出るのでしょうか。
    小さな胃癌では癌自体による症状を認めることは決して多くありません。従って、無症状の方に積極的に検診を受けていただきたいのです。逆に症状が出現するのは進んだ状態の胃癌の場合が多いようです。しかし、進んだ状態の胃癌でもまったく症状の無い場合もあります。症状として、癌組織がくずれた部分から出血し、便が黒くなったり、血を吐くことがあります。また、癌のため胃がふくらみにくくなると内腔を占居すると食べられない、食べても吐いてしまう、といった症状が起こります。ただし、これらの症状は胃潰瘍でも起こりうる症状です。
  • 胃がんとピロリ菌には関係がありますか。
    ピロリ菌感染は慢性胃炎の原因とされ、慢性胃炎による胃粘膜の変化は胃癌の重要な発生母地と考えられています。胃癌の患者さんのピロリ菌の保有率は90%程度とされており、最近では、胃癌に対して内視鏡治療をした患者さんに対してピロリ菌を治療したところ、治療していない患者さんに比べて新たな胃癌の発生が約1/3になったと報告されています。WHO(世界保健機構)から胃癌の発癌物質として認定されていることにより、胃癌とピロリ菌には強い関係があることが予想されますが、その機序も含め現時点では未だ研究中の段階です。
  • 胃がんの検査方法にはどのようなものがありますか。
    胃癌の検査方法として、主にX線二重造影と内視鏡検査が挙げられます。X線二重造影は通称“胃透視”と呼ばれる、バリウムを飲んで行うレントゲン検査です。集団検診に用いられているように、患者さんにとっては簡便であまり苦痛を伴わない検査法ですが、撮影方法や検査結果の判定に習熟が必要で、微量ですが被爆してしまうという欠点があります。内視鏡検査は俗に“胃カメラ”と呼ばれている検査法で、口からスコープを挿入して胃や食道などを直接観察します。病変が疑われる際には組織検査も行うことができるメリットがありますが、スコープが舌の根元を刺激することで吐き気が誘発され、大きな苦痛を伴うことがあります。この欠点を補うため、最近は鼻からスコープを挿入する経鼻内視鏡検査も行われています。また進行胃癌であれば、CTや超音波(エコー)検査で見つかることもあります。
  • 胃がんの検査は、毎年受けた方が良いでしょうか。
    日本で行われた研究によると、胃癌検診を受けることで胃癌による死亡の危険性を50-60%と低下させると報告されています。また、胃癌によっては早期発見が極めて困難で、進行が早いものもあります。世界から見て日本は未だ胃癌が多い国の一つです。毎年検査を受けることをお勧めします。
  • 胃がんにはどのような治療がありますか。
    胃癌に対する治療には、内視鏡による治療、外科的手術、化学療法(抗癌剤による治療)などがあります。内視鏡による治療は、リンパ節へ癌細胞が転移している可能性がほとんどない早期の癌に対して行われます。病変を含んだ組織を切除する方法とレーザーなどで組織を焼灼する方法がありますが、切除した標本を病理組織学的に診断(顕微鏡を用いて診断)できるため、通常は前者が用いられます。内視鏡的に切除する方法は、内視鏡的粘膜切除術(EMR)と呼ばれます。これにはいろいろな方法が含まれますが、電気メスで病変を含んだ組織を切開剥離する方法(内視鏡的粘膜下層剥離術、ESD)の開発、普及により、以前より広い範囲の癌や潰瘍の瘢痕を伴った癌などが切除できるようになりました。リンパ節への転移の可能性がある、または、内視鏡的に切除できない癌に対して、外科的手術が行われます。術式は、癌のできた部位や深達度(癌が胃の壁のどの部分(深さ)まで及んでいるか)、リンパ節転移の程度などを考慮して決められます。手術で切除できない癌の患者さんで、全身の状態が抗癌剤に耐えられる方には、化学療法が行われます。また、放射線療法や温熱療法、免疫療法が行われる事もあります。その他、痛みなどの症状がある時は、それを和らげる治療が行われます。
  • 早期胃がんと診断されました。内視鏡での治療は可能でしょうか。
    早期胃癌の中で、リンパ節へ癌細胞が転移している可能性がほとんどなく、内視鏡的に一括で切除できる大きさと部位にあるものに対して、内視鏡的に病変を含んだ組織を切除する治療(内視鏡的粘膜切除術、EMR)が行われます。内視鏡的治療に適した癌かどうかは、胃癌の深達度(癌が胃の壁のどの部分(深さ)まで及んでいるか)および広がった範囲などを治療前に診断して、判断します。胃癌治療ガイドラインではその具体的な基準として「分化型(癌組織の種類)、大きさが2cm以下、潰瘍の瘢痕を伴わない粘膜にとどまる癌」とされていますが、近年、上述の内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の出現で、より大きな癌や潰瘍の瘢痕を伴った癌などが切除可能となり、センター的な施設を中心に適応を拡大して内視鏡的治療が行われています。最終的に内視鏡的治療が十分であったかどうかは、切除した標本を病理組織学的(顕微鏡を用いた診断)に診断して決定します。EMRの他にレーザーなどで組織を焼灼する方法もありますが、切除した組織を回収、診断できないため、全身の状態が手術に耐えられず、EMRも難しい場合などに限られて行われます。
  • 胃切除にはどのような方法がありますか。
    胃癌の手術の場合、胃そのものだけではなく胃周囲のリンパ節を含めて切除を行います。その切除範囲は、胃癌の種類(分化度)、深さ(深達度)、広がり、位置などにより決定されます。切除範囲の少ないものから順に、局所切除、分節切除、噴門側胃切除、幽門側胃切除(2/3以上の胃切除)、胃全摘などの切除法があります。また、リンパ節に関しても病変に応じて病変近くの1群のみの切除やそれより広い2群までを切除する場合があります。胃切除後は、残った胃と十二指腸あるいは小腸を縫合します。胃全摘の場合は、食道と小腸を縫合します。お腹の中での処置は同じであっても到達方法として従来行われてきた開腹胃切除術の他に、より身体にやさしい腹腔鏡(補助)下胃切除術が最近多く行われるようになっています。
  • 胃がんに対する治療(手術)はどのような方針で行っていますか。
    胃癌の治療に際して最も重要なことは根治の可能性を追求することですが、一方で胃は栄養摂取の入り口となる重要な臓器で身体のためにはなるべく残すことが求められます(機能温存)。この根治性と機能温存のバランスを考え、患者さん一人一人に最も適した方法を選択することを第一に考えています。様々な検査によって癌の病期を見定め、まずは内視鏡(胃カメラ)治療の可能性を考え、次に手術となった場合もなるべく広く温存できないかどうかを考えるとともに腹腔鏡下の手術が可能かどうかを考えます。検査や内視鏡での治療は内科や放射線科で行いますので、内科医、放射線科医、外科医の連携を密にすることも基本的な方針です。
  • 胃がんの手術も腹腔鏡でできると聞きましたが、どのような場合にできますか。
    従来の開腹手術に比べて、傷が小さく身体にやさしい腹腔鏡(補助)下手術は歴史が浅く、現在全国的に徐々に普及しつつある段階です。つまり、現時点ではどの外科医でもできるというわけではなく、外科医の経験や技量によるところが大きいといえます。一般には開腹手術既往のない早期の胃癌に対して行われていますが、進行胃がんに対して積極的に行っている外科医もいます。我々も開腹手術の既往があっても、胃の近傍のリンパ節までの転移にとどまるものであれば進行胃がんでも腹腔鏡で行っていますし、胃全摘術も腹腔鏡で行っています。各病院でどのような場合まで腹腔鏡手術を行っているかは異なりますので、診断を受けた内科医や直接治療を受ける外科医に相談することをお勧めします。
  • 近くの病院で胃がんと診断され、手術が必要と言われました。九州大学病院で手術をしてもらえますか。
    手術できます。近くの病院で紹介状を作成してもらい受診して下さい。
  • 胃切除を行った後の生活はどうなりますか。
    胃の手術後は胃が小さくなる、あるいはなくなるので、食事摂取に注意を払う必要があります。具体的にはよく噛んで食べる、ゆっくり食べる、分けて少なめに食べる、食べてすぐに横にならない、などが挙げられます。ただし、基本的には何を食べてもよく、コーヒーや適度なお酒も構いません。また、体力に応じて運動や仕事などの日常生活も十分行えます。
  • 手術を受けた場合の入院期間はどれくらいでしょうか。
    術後の経過によって違いますが、通常術後10日前後で退院になることが多いです。
  • 胃がんの手術を受けた後、通院はどれくらい必要ですか。
    癌の進行度などによって若干異なりますが、術後5年までがひとつの目安です。再発の危険性に応じて計画的にフォローアップし、CTスキャン、超音波検査、内視鏡検査、血液検査などを行います。5年以降は毎年基本検診を受けるようお勧めします。
  • 胃がんの化学療法とはどのようなものでしょうか。
    比較的症状が少なく、日常生活を過ごせている方であれば、通常は2種類の抗がん剤を組み合わせて治療を行います。内服薬と点滴の薬剤を用いることが多く、点滴の薬剤を使う場合、多くは入院が必要です。症状によっては、内服薬のみ、あるいは点滴薬のみのこともあります。点滴薬の場合であっても、外来で治療をすることが可能な場合があります。治療は、薬の内服・点滴の期間と、薬を使わない休みの期間があり、数週間毎に繰り返していくことが一般的です。