九州大学病院のがん診療

胃がん

外科的治療

消化管外科における胃を対象とした内視鏡手術 胃がんと外科治療

胃は、食事の消化吸収のために重要な器官です。胃のおもな機能は、食べたものを一時的に胃にとどまらせ(貯留)、強い酸で消化を助け(分解)、そして食べたものをゆっくり小腸に送り出す(排出)ことです。がんによる外科治療を行うと、手術法によって部分的に、もしくはこれらすべての機能が失われます。しかしながら、多くの遠隔転移のない胃がんは外科治療で治癒させることができるため、胃の外科治療の適応決定には細心の注意が必要です。

おもな胃の手術

幽門側胃切除術
胃の入り口側を噴門側、胃の出口側は幽門側と呼ばれます。したがって出口側の胃を切除する方法が幽門側胃切除術です。胃の手術のなかでもっとも頻度が高い方法です。

胃全摘術
胃をすべて切除して食道と空腸(小腸の一部)をつなぐ方法です。癌が胃の入り口に近い場合や、癌が大きい場合は胃全摘術が選択されることがあります。

噴門側胃切除術
胃の入り口側を切除する手術方法です。胃の入り口に近い部位にある癌が対象になります。胃の入り口を切除すると、胃の内容物が逆流するため、手術には特別な工夫が必要です。この術式は煩雑なため施設によっては行われておらず、幽門側胃切除に比べると頻度は低いです。ただ、現在、全国的にできるだけ胃を温存する傾向があり、当院では積極的に行っています。

進行がんに対しては全国的には開腹手術がまず選択されますが、当院では胃鏡視下手術における手技が確立されており、早期がん、進行がんを問わず、鏡視下手術を行っています。また胃の出口側2/3の切除を行う幽門側胃切除術だけでなく、胃を全て切除する胃全摘術や、胃の入り口側を切除する噴門側胃切除術も腹腔鏡下で可能となり、2010年からはおおむねすべての胃がんの患者さんが腹腔鏡下手術の対象です。一方、進行した胃がんにより食事摂取が不可能となった患者さんには、新たな食事の通り道を作成するバイパス術(胃−空腸バイパス術)も腹腔鏡で行っています。

腹腔鏡手術とロボット手術

当院では、1991年に世界で初めて胃がんに対して胃部分切除術を行いました。世界で内視鏡手術(腹腔鏡下手術)が黎明期であった1990年代後半から積極的に胃がんに対しても腹腔鏡下手術を行っています。

手術方法は、まず臍の10mm程の傷から内視鏡を入れて、お腹の中の様子をテレビモニターに映します。現在では3Dモニター、あるいは4Kモニターなどの高精細なモニターを使用しています。さらに5-10mmの小さな傷を数か所追加し、鉗子という細長い器具を使用し、このモニターの映像を見ながら胃周囲のリンパ節と病変を含んだ胃の切除を行います。切除が済んだ時点で臍の創を3cm程度に延長し、切除した胃とリンパ節を体外に取り出します。病変を確認して再び映像を見ながら再建(胃と十二指腸または小腸をつなぎます)を行います。手術支援ロボットを使用したロボット支援下手術は胃がんを対象としてすでに平成30年度より保険収載され、現在では一般的な治療となっています。九州大学病院では2000年に手術ロボット、ダヴィンチを使った胃切除術を初めて行いました。ロボット支援下手術では3次元画像情報による立体認識の向上と多関節のロボットアームによる自由で直感的な操作性、人間の手ではどうしても発生する手ぶれを補正して安定した手術が可能になり、胃がんに対する手術でも極めて有用です。

胃に対する内視鏡手術(腹腔鏡下手術)の長所

手術創はへそに約3-4cm程度の創(ここから切除した胃と周囲リンパ節をひとかたまりに取り出します)と、1.2cmの創が2か所、0.5cmの創が3か所できます。0.5cmの創は数か月でほとんどわからなくなります。手術創の大きさ以上に重要な内視鏡手術のおもなメリットは、開腹に比べ拡大視野がえられることがあげられます。現在のカメラは解像度が高く、詳細にお腹の中を観察できますので、微小な血管や神経などもしっかりと観察して組織を剥離、切離することができるため、より確実な手術が行え、出血量も開腹手術と比べると格段に少なくて済みます。また、腸管を直接手で触りませんので、術後に腸管の麻痺が起きにくいこともメリットです。このため癒着も少なく、腸の蠕動運動の回復が早く、食事を早期に開始できますし、術後の在院日数も短くなり、社会復帰が早くなります。腸閉塞のような手術後の障害も生じにくいとされており、体重の減少が少ないことも知られています。もちろん術後の痛みも軽度です。

胃がん手術後の一般的な経過

一般的な術後の経過は、手術翌日から歩行、水分摂取を開始します。大きな傷と比べると痛みが少ないので、手術翌日から歩行することも可能です。幽門側胃切除(胃をおよそ3分の2切除)の患者さんは2日目から食事を、胃全摘術の患者さんは3日目から開始してもらいます。少しずつ硬いご飯を食べるようにしてもらい、幽門側胃切除術の患者さん、胃全摘術後の患者さんともに7日目以降に退院となります。もちろん、肺や心臓に持病のある患者さんや合併症のある患者さんはそれに合わせて入院期間が長くなることもあります。胃の手術後は食事摂取の方法が手術前とは異なりますので、なるべく退院前に食事指導を受けていただきます。

胃がんの手術後には、ダンピング症状や貧血など胃がなくなったことによる独特の症状が現れることがあります。幽門側胃切除術では、胃が部分的にのこりますが、胃の主な機能である食物の貯留、消化作用はほとんどなくなります。そのため、ゆっくりよく噛んで食べることで、その作用を代用することが必要です。手術後数ヶ月もすると術前と同等の食事の量となることがほとんどです。胃全摘術では胃の機能が完全に失われるために、幽門側胃切除の場合よりさらによく噛んで食事をする事が重要となります。全摘したからと言って、障害が残るわけではないので、日常生活は通常通り行えます。

また、当院では術後の再発を防ぐために、進行した病期の患者さんには術後補助化学療法も行います。手術治療から再発を防ぐ治療、さらには再発後の治療まで、多くの消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、がん薬物療法専門医などが責任を持って治療を行います。

高度進行胃がんに対する集学的治療

高度進行胃がんの患者さんに対して、手術のみの治療ではがん細胞が体内に遺残し、再発を来たす頻度が高くなります。胃の手術を行ってもがん細胞が明らかに遺残し手術のみで根治されたとは考えにくい(根治度Cと表現します)場合の5年生存率は、1990年代まではほぼ0%でしたが、2000年代に入り新しい薬物療法が開発され、その値が20%近くまで向上しています。

高度進行がんで、そのままでは根治的に切除が困難な場合でも、手術前に抗がん剤を使うことで、胃がんや転移したリンパ節が小さくなり、その後に胃がんを手術で取りきれるようになることがあります。腹膜というお腹のなかに散らばるような転移でも術前の化学療法で転移巣が消失することもあります。術前化学療法には多くの薬剤の組み合わせがあり、新しい薬剤の治験も行われています。

なお、がんが腹膜や肝臓の表面に転移していても、CTなどの画像で病変が捉えられないことがあります。まず腹腔鏡でお腹の中の状態を診断する”審査腹腔鏡”を行い、正確な診断の下に化学療法と手術療法を効果的に組み合わせ、治療効果を上げていく場合もあります。

用語解説

バイパス術 : 狭窄や閉塞をきたした経路に対し、直接修復が不可能な場合、人工的に迂回路をつくる手術。
蠕動運動 : 筋肉の収縮運動。消化管では摂取した食べ物がこの運動によって食道から胃・腸へと運ばれていく。
ダンピング症状 : 胃を切除したことにより、食べ物を摂取後、急速に小腸に流入しおこる症状。動悸やめまい、倦怠感など。
病期 : 疾病の経過をその特徴によって区分した時期。
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法。
集学的治療 : 外科的治療、化学療法、放射線療法などの複数の治療方法を組み合わせて行うがんの治療法。
播種 : 癌細胞が体の中で散らばった状態。
CT : コンピュータ断層法。身体の横断断層を撮影する特殊なX線装置。