九州大学病院のがん診療

胃がん

内視鏡的治療

胃の壁は内側から粘膜層、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜の5層構造となっています。胃がんは粘膜層から発生しますが、がんの深さ(深達度)が粘膜下層までに留まるものを早期胃がんと呼びます。内視鏡治療は患者さんの体への負担が少ないという大きなメリットがありますが、胃の内側からの治療となるため、深達度が深い病変や、リンパ節転移といった胃の外にある病変は治療することができません。したがって、早期胃がんのうち深達度が浅く、リンパ節や他の臓器に転移がないものが内視鏡治療の対象となります。内視鏡治療を行う前には、上述した条件を満たす病変かどうか診断するために内視鏡以外の検査も必要です。また、内視鏡治療により病変をきれいに切除して、切除した組織を顕微鏡できちんと診断すること(病理組織学的診断)が重要となります。

早期胃がんに対する内視鏡治療として主なものに、内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があります。EMRは1980年代に日本で開発された治療法で、病変の下に薬液を注射した後に鉗子という道具で病変を掴み上げて、スネアと呼ばれるリング状の電気メスで病変を縛って焼き切る方法です。しかし、EMRは大きな病変や潰瘍を伴った病変、内視鏡治療後に再発してきた病変をきれいに切除することができないという欠点がありました。そこで、2000年前後より、ESDという方法が開発されました。ESDは早期胃がんの病変周囲や病変の下を特殊な電気メスを用いて切開して剥がしていく方法です(図)。ESDは、EMRによる切除が困難な病変でもきれいに切除することができるため、がんの取り残しによる再発が少なく、なおかつ切除した組織の詳細な病理組織学的検索が可能となることで、外科的治療を含めた追加治療の必要性に関して十分な検討ができます。ただし、胃の壁の厚さは1cmもないため、粘膜層および粘膜下層を切開して剥がしとっていくESDには内視鏡の繊細な操作が必要であり、EMRよりも高度な技術が要求されます。

当院では、2001年より早期胃がんに対する治療としてESDを導入しています。現在では、ESDは粘膜内の早期胃がんの治療法の第一選択となっており、当院では最新の内視鏡機器を用いて年間100例以上のESDを施行し、粘膜内の高分化型腺癌であれば大きさと無関係に95%以上の治癒切除率が得られています。また同時に、次世代を担う若い医師へのトレーニングシステムも構築し、ESDの技術向上のため日々修練を積んでいます。
用語解説
EMR : 内視鏡的粘膜切除術
ESD : 内視鏡的粘膜下層剥離術