九州大学病院のがん診療

造血器悪性腫瘍

薬物治療(急性白血病)

1.急性白血病の寛解導入療法とは?

急性白血病は、急性骨髄性白血病(AML:acute myeloid leukemia)と急性リンパ性白血病(ALL:acute lymphoblastic leukemia)に大別されます。血液中にがん細胞が存在するため、手術や放射線治療などで治すことは困難ですが、他のがんに比べて抗がん剤が効きやすい病気です。診断された場合には速やかに抗がん剤治療(化学療法)を開始することが望まれます。
初回は寛解導入療法と呼ばれる治療を行います。これは、骨髄中の白血病細胞を減少させ完全寛解状態(白血病細胞が5%以下)を目標とした強力な化学療法です。正常の造血が回復するまで、約1か月かかります。寛解導入療法で完全寛解が得られた場合にも、まだ体内には多くの白血病細胞が残っています。白血病の治癒のためには、完全に白血病細胞を根絶させること(Total cell kill)が必須とされています。そのために寛解導入療法の後に、寛解後療法(地固め療法、維持療法、あるいは造血細胞移植)と呼ばれる一連の化学療法を行っていきます。

2.寛解後療法とは?

白血病細胞の染色体/遺伝子変異に関する検査結果や治療反応性を参考に、予後良好群や中間群の患者さんでは、化学療法を継続します。白血病細胞に特定の染色体/遺伝子異常がみられたり、完全寛解までに時間がかかった場合には、再発の危険が高いことがわかっています。このような予後不良群の患者さんでは、寛解後療法として造血細胞移植が選択されることがあります。さらに、PCRなど分子生物学的な検査法の進歩により、体内に残存する微小なレベルの白血病細胞(微小残存病変:MRD)の有無を測定することで、治療方針を決定することができるようになりました。ALLや一部のAMLでは、脳や脊髄(中枢神経)に白血病細胞が浸潤することがあります。一般に抗がん剤は中枢神経に到達しにくいため、抗がん剤を中枢神経系に直接投与する髄腔内注射や放射線療法を、寛解後療法中に行うことがあります。

3.化学療法の副作用は?

抗がん剤共通の副作用である嘔気や骨髄抑制が、白血病の治療でも認められます。嘔気は、制吐剤により軽減することができます。骨髄抑制とは、抗がん剤が正常な造血細胞にも障害を与えるため、白血球、赤血球、血小板が減少することをいいます。白血球がゼロ近くまで減少するので、感染症を予防するために、しばしば無菌室で治療が行われます。最近では、G-CSFという薬剤を使って白血球の数を速やかに回復させることができるようになりました。赤血球が減少すると動悸や息切れといった症状が、血小板が減少すると出血の症状がおこりやすくなるので、赤血球や血小板輸血を行います。白血病のタイプ(AMLかALLか)に合わせて異なる抗がん剤を使用します。白血病に対する化学療法では、特徴的な副作用がある抗がん剤を複数組み合わせて使用することが多く、専門スタッフによる慎重な管理が必要になります。

4.分子標的治療とは?

近年、がん細胞に狙いを絞った分子標的治療が注目されています。急性白血病の治療は、がん治療の中でその先駆けとなってきました。予後良好である「急性前骨髄球性白血病」では、寛解導入療法としてレチノイン酸(ビタミンA)を内服して、白血病細胞を成熟した白血球に分化させる「分化誘導療法」を行い、完全寛解を目指します。最近では、レチノイン酸と同様に白血病細胞を分化させる亜ヒ酸を併用することで高い治療効果が得られることが報告されています。化学療法のみでは極めて予後不良であった「フィラデルフィア染色体陽性ALL」では、白血病の原因であるフィラデルフィア染色体異常に直接作用するイマチニブやダサチニブという内服薬を化学療法と併用することで、治療成績が改善しています。その他にも、AMLの中で高頻度に認められ、予後不良とされる「FLT3遺伝子変異」に対するFLT3阻害剤(ギルテリチニブ・キザルチニブ)、白血病細胞の表面に発現しているCD33タンパクを標的としたゲムツズマブオゾガマイシン、CD19・CD22というタンパク質を標的とした免疫抗体治療(ブリナツモマブ・イノツズマブ・チサゲンレクルユーセル)も開発され、再発・難治例に対し、優れた治療成績が報告されています。
骨髄異形成症候群は、血球減少をおこし将来AMLに移行することを特徴とする造血器腫瘍です。その中でも芽球という幼若な細胞が増加して白血病に近い状態にある患者さんには、アザシチジンという薬が有効なことがわかってきました。これまで抗がん剤といえば細胞のDNAに働いて切断することで効果を発揮するのが特徴でしたが、アザシチジンはDNAのメチル化という特殊な修飾をおさえることが主な機序であり、吐き気や脱毛、血球減少などの副作用が軽いことが特徴です。海外の報告では、約半数の患者さんで血球数が回復し、4分の1の患者さんに芽球の減少が認められています。
その他にも多くの新しい薬剤が開発されております。2021年にはBCL-2阻害剤であるベネトクラクスがAMLに対して保険承認され、高強度化学療法に不耐用と考えられる高齢者の患者様への治療選択肢が広がりました。白血病の治療は、さらなる成績の向上を目指して、今後も大きく変わっていくと期待されています。

5.九州大学病院の特徴は?

急性白血病は、病型や予後によって治療法が違います。化学療法、分子標的薬、造血細胞移植に熟練した専門医師が常時10名前後の体制で診療しており、すべての治療法に対応可能です。適切な時期に、適切な白血病治療を提供できる体制を整え、治癒を目指します。

用語解説
寛解導入療法 : がんの症状や徴候を軽減、消失させることを目的とした抗がん剤による治療法
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
骨髄抑制 : 抗がん剤などによって骨髄内の正常血球細胞の産生が障害されること
分子標的治療 : 癌に関与する遺伝子や遺伝子産物を標的とした薬剤による治療法