九州大学病院のがん診療

肝がん

内科的治療

原発性肝癌の治療は肝切除が基本です。内科的治療の適応になるのは、⑴肝硬変による肝機能障害が進行しているために、安全に肝切除を行うことができない場合、⑵腫瘍の多発化・巨大化・肝外転移の合併など癌が進行している場合、⑶患者さんが内科的治療を希望された場合などです。内科的治療は、局所療法・経肝動脈的治療・全身化学療法に大別されます。

(1) 局所療法:ラジオ波焼灼療法・エタノール注入療法

ラジオ波焼灼療法は、超音波で腫瘍を確認しながら腫瘍まで針を穿刺して行います。穿刺針の先端からラジオ波電流を流して熱を発生させ、針の先端部分を中心とした径2〜3cm程度の範囲を100℃近くの温度にまで上昇させて腫瘍細胞を壊死させます。治療対象は主に肝細胞癌ですが、転移性肝癌に対して治療を行うこともあります。腫瘍部分だけを選択的に治療するため、ある程度肝硬変が進んだ方でも行うことができますが、腹水や黄疸が強い場合には施行できません。一般的には、腫瘍数が3個以内・最大腫瘍径3cm以内が治療対象の目安です。治療に要する時間がやや長く(10〜20分程度)、出血などの合併症が多いのが欠点ですが、加熱により腫瘍を壊死させるため腫瘍に対する壊死効果は後述のエタノール注入療法よりも優れており、ややサイズが大きい腫瘍に対しても治療が可能です。周囲臓器や肝臓内の脈管への熱凝固の影響が危惧される場合には次のエタノール注入療法が用いられます。

エタノール注入療法は、ラジオ波焼灼療法と同様に超音波で腫瘍を確認しながら細径針を腫瘍まで穿刺し、高純度のエタノールを注入して腫瘍細胞を直接壊死させる治療法です。肝細胞癌に対して優れた効果を発揮しますが、肝内胆管癌や転移性肝癌に対しては効果が不十分であり対象とはなりません。腫瘍の個数やサイズの制限もラジオ波焼灼療法と同様です。合併症の出現率は低いですが、エタノールを腫瘍内で拡散させる治療法であるため、サイズが大きくエタノールの拡散が不完全となる場合には十分な治療効果が得られないこともあります。

(2) 経肝動脈的治療:肝動脈化学塞栓療法・肝動注化学療法・持続動注化学療法

肝臓は腸管から吸収された栄養が多く含まれる門脈と肝動脈からの血流を受けていますが、肝細胞癌は肝動脈から栄養されます。この特性を利用して肝動脈を経由して癌に効率的に薬剤を注入する治療法です。この治療法は単独で行う場合もありますし、局所療法と組み合わせてその効果を高めるために用いられることもあります。

肝動脈化学塞栓療法は、リピオドールという油性物質に抗癌剤を懸濁したものを腫瘍部分に選択的に注入した後、塞栓物質を追加して腫瘍への血流を遮断する方法です。癌以外の部分への影響が少ないので、やや肝臓の機能が低下している場合でも治療可能です。特定部位だけを対象としない場合には、肝臓全体に抗癌剤を注入する肝動注化学療法を行います。

肝硬変の進行程度が比較的軽い場合には、肝動脈にカテーテルを留置したまま注入部を皮下に埋め込み、繰り返し抗癌剤(5-FU+シスプラチン)を注入する持続動注化学療法を行います。1回の治療期間は約2週間で、効果が持続する限り繰り返し治療を行います。

(3) 全身化学療法

肝細胞癌は他の癌と比較して抗癌剤が効きにくい癌種であるため、上記のように肝動脈から高濃度の抗癌剤を注入する方法が必要でした。現在は癌の血管新生や細胞増殖を抑制するソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、ラムシルマブといった分子標的薬が開発され、実際に使用されています。これらの薬剤は、進行した肝細胞癌の患者さんの生命予後を延長できることが実証され、手術適応のない肝細胞癌の標準治療薬として用いられています。これまで有効な抗癌剤が少なかった外科的切除不能な肝内胆管癌にも、近年ジェムシタビン+シスプラチン、TS-1といった薬剤が一定の効果を示すことが認められ、標準的に使用されています。
用語解説

化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
ラジオ波焼灼 : 腫瘍の中に電極針を挿入し、高周波(ラジオ派)により誘電加熱し、癌を凝固壊死させる治療法
エタノール注入療法 : 超音波で確認しながら腫瘍に針を刺し、エタノールを注入することでがん細胞を壊死させる方法
動注化学療法 : 動脈に直接、抗がん剤を注入する方法。
カテーテル : 体腔や消化器などの体内容物の排出・採取、薬物の注入目的に使用される細い管
分子標的薬 : 癌に関与する遺伝子や遺伝子産物を標的とした薬剤による治療法。