九州大学病院のがん診療

肝がん

院内がん登録情報

肝細胞癌のほとんどは、B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスのキャリアに発生します。これは、発癌のリスクが高いキャリアを定期的に検査していれば、早期発見ができるということを意味します。ところが、初発の症例の内訳を見ると、登録情報の図1と図2からもわかりますようにステージⅢまたはⅣで受診される方も少なくありません。この結果から、ハイリスクグループである肝炎ウイルスキャリアの方の経過観察が、十分にできていない可能性が示唆されます。図4にお示ししますように、ステージⅣ(AまたはB)の癌では、生存率が良好とは言えません。一方、ステージⅠ及びⅡの肝がんでは、当院の治療成績ですと、50%以上の5年生存率が得られています。これは、わが国でもトップクラスの成績です。

進行した状態で受診される方の多くは、B型肝炎ウイルスキャリアであることがわかっています。B型肝炎ウイルスは、出産時に母親から感染し、キャリア化します。キャリアとなると、思春期に肝炎を起こすことが多いのですが、その後は、大半の方で、血清中の肝炎ウイルスマーカー(HBs抗原)が陰性化し、肝炎も鎮静化します。肝炎が鎮静化すれば、肝硬変へ進行する心配はないのですが、ウイルスは肝内に残り、発癌の原因となります。進行した状態で発見される肝癌患者にB型肝炎ウイルスキャリアが多い理由は、肝炎が治まった時点で、通院をやめてしまう方が多いことによると考えられます。肝細胞癌の新規登録の対象となる方が高齢化しているのは全国的な傾向ですが、高齢者の中には、自分がB型キャリアであることを知らないまま過ごしてきた方が多いのです。このような方が、少しでも自分の発癌リスクを認識できるよう、地方自治体は、B型・C型肝炎ウイルスの無償検査を行っています。親族に肝臓疾患の方がいる場合はもちろん、過去に肝炎ウイルスの検査を受けたことがない方は、是非一度かかりつけの診療所で検査を受けられることをお勧めします。もし、肝炎ウイルスのキャリアであることが判明したら、肝細胞癌の早期発見のために、定期観察を行っていく必要があります。

C型肝炎はほとんどの患者さんで内服薬によりウイルスを完全に消失させることが可能となりました。ただ、ウイルス消失後の発がんが問題になっています。C型肝炎ウイルス消失後も肝細胞癌の早期発見のために定期的な経過観察をお勧めいたします。

また、最近の傾向として、肝炎ウイルスを持っていない患者さんから肝細胞癌が発生する例が増えてきています。その内訳を見てみると、アルコール性肝硬変と並んで、非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)が原因となっている場合が多いのです。NASHとは、過剰なカロリー摂取で生じる脂肪肝に、糖尿病などの二次的な要因が加わって生じる、肝臓の炎症です。日本人の食習慣が変化してきた結果、NASHを背景とした肝細胞癌が徐々に増加してきていると考えられています。つまり、肝細胞癌は、生活習慣病のひとつの結果でもあるのです。

外科的治療は、ステージが進行していても、肝硬変の程度さえ軽ければ治療選択の対象となる可能性があります。当院のデータでも、ステージⅢないしⅣAでも根治的治療が可能であることが示されていますが、これは事前に十分検討を行って治療に臨んだ結果です。最近では、腹腔鏡下手術で患者さんの負担を軽減するような工夫もされています。

肝癌は、抗癌剤に対して抵抗性であることが多く、従来、治療の主流ではありませんでした。しかし、最新の分子標的薬は、進行肝癌に対して延命効果が証明され、我が国でも手術適応のない肝癌の標準治療薬として用いられています。今後は、他の治療法と組み合わせることで、より有効な使用法が確立される可能性もあります。

肝癌に対して放射線治療が行われる症例は、それほど多くありませんが、様々な理由で手術ができない患者さんなどには、考慮されることがあります。また、疼痛や神経障害を伴う骨転移に対しては、放射線治療は有効な治療法となります。

肝 2007-2018年症例のうち悪性リンパ腫以外治療前・取扱い規約ステージ

取扱い規約について集計を行った。
※症例2:自施設で診断され、自施設で初回治療を開始(経過観察も含む)
 症例3:他施設で診断され、自施設で初回治療を開始(経過観察も含む)
※図4の生存曲線は全生存率として集計(がん以外の死因も含む)

図1 ステージ別症例数
(症例区分2、3)

図2 ステージ別発見経緯
(症例区分2、3)

図3 ステージ別治療法
(症例区分2、3)

図4 Kaplan-Meier生存曲線(肝)

肝内胆管 2007-2018年症例のうち悪性リンパ腫以外治療前・取扱い規約ステージ

図1 ステージ別症例数
(症例区分2、3)

図2 ステージ別発見経緯
(症例区分2、3)

図3 ステージ別治療法
(症例区分2、3)

図4 Kaplan-Meier生存曲線(肝)

用語解説

分子標的薬 : 癌に関与する遺伝子や遺伝子産物を標的とした薬剤による治療法。
悪性リンパ腫 : リンパ系組織から発生する悪性腫瘍。