九州大学病院のがん診療

口腔がん

はじめに

口腔がんとは、口の中とくちびるに発生する「がん」のことです。口腔がんには舌や歯肉、頬のように口の中の表面を覆っている粘膜に発生するものと口の中に唾液を分泌している唾液腺(耳下腺を除く)に発生するものが含まれます。いずれの場合でも口の中に「できもの」や「しばらく治らない傷や荒れ」などとして自覚されることが多いです。また、他の臓器のがんが口腔や顎の骨に転移したり、悪性リンパ腫や白血病などが口腔内に出現する場合もあります。

写真には、比較的小さな舌がん(左)と大きな舌がん(右)の写真を示します。

口腔がんの好発年齢、性別

口腔がんはわが国においては年間に8,000名ほどが新規に罹患していると言われますが、患者数は増加傾向にあります。好発年齢は60歳台、男性の方が女性より多いとされています(男性:女性=3:2)。

好発部位

口腔がんは口の中の歯以外のどこにでも発生します。ただ発生しやすい場所があり、日本人では舌に発生することが最も多く、次が上下の歯肉となり、頬粘膜、口底、口蓋、顎骨中心性、下唇の順となっています。舌の中では、舌のへり(側縁部)に最もできやすいです。

組織型

口腔がんは口の中の粘膜表面から発生するタイプ(扁平上皮癌)が最も多く、口腔がん全体の約90%を占めています。残りのうち10%が唾液腺から発生するタイプ、肉腫悪性リンパ腫、白血病などです。

口腔がんの危険因子

口腔がんの発生についてはさまざまな要因(発がんの因子)が作用しているといわれています。多くの場合、直接的な原因を見い出すことは難しいですが、喫煙と飲酒は危険因子とされています。また慢性的に刺激が加わり続けることも発がんにつながることがあります。慢性的な刺激源になるものとしては虫歯によって欠けたり、詰め物やかぶせものがはずれたままになったりしてとがっている歯、適合が悪い義歯などがあります。

口腔潜在的悪性疾患(前癌病変)

口腔がんにはその前兆となる口の中の状況が存在する場合があることが知られています。将来がんになりやすい組織と言い換えることもでき、「白板症」と「紅板症」がこれにあてはまります。このうち白板症の癌化率はわが国では3.1〜16.3%とされています。特に、舌にできた白板症は癌化率が高いため注意を要するとされています。

口腔がんの進展

口腔がんはその発生した場所(原発巣)で増大するとともに癌細胞がリンパや血液の流れに乗って原発巣以外の臓器や組織にたどり着き、そこで増殖する(転移)ことがあります。リンパの流れに乗った場合の転移をリンパ節転移と呼び、口腔がんの場合は頸部のリンパ節に転移をする場合が多いです。血液の流れに乗った場合の転移を遠隔転移といいます。この場合は身体のどこに転移してもおかしくありませんが、口腔がんの場合の遠隔転移の好発部位は肺です。

チームアプローチと摂食嚥下リハビリテーション

九大病院がんセンターの口腔部会は口腔外科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、放射線科、血液腫瘍内科、口腔画像診断科、口腔病理、歯科麻酔科のドクターに加え、薬剤師、看護師によって構成され、口腔がんに対して連携して診察と診断と治療を行っています。また、口腔がん治療後はできるだけ早期にかつ安全に口からの食事摂取を再開し、会話機能を回復するために、歯科医師、耳鼻科医師、看護師、管理栄養士、言語聴覚士を含むチームによって、摂食嚥下リハビリテーションを系統的に実施しています。
用語解説

悪性リンパ腫 : リンパ系組織から発生する悪性腫瘍
肉腫 : 悪性腫瘍のうち、線維、血管、骨、軟骨、筋肉、造血組織などから発生するもの
白板症 : 皮膚粘膜移行部、粘膜、移行上皮に生ずる比較的境界明瞭な白色角化局面で、症候性、外傷性など良性のものと、前癌性変化によるものとがある