九州大学病院のがん診療

食道がん

外科的治療

食道がんの治療法としては①切除術、②放射線治療、③抗がん剤治療があり、通常いくつかを組み合わせて治療を行います。早期の病変の場合(Stage0)には内視鏡で病変部を切除すること(内視鏡的治療;ESDEMR)で治療が完了することもあります。しかし食道がんは比較的早い段階から高頻度にリンパ節転移を来たすことが知られ、ごく小さな病変でも場合によっては手術が適応になります。食道がんの標準的な手術法は①胸にある食道がんを切除しリンパ節を郭清する(胸部操作)、②胃をつかって切除した食道のかわりに新たな食物の通過経路(胃管)を作成する(腹部操作)、③残存食道と胃管を吻合する(頸部操作)から構成される複雑で、難易度の高い手術です。

気管や大動脈などの臓器に浸潤が疑われる場合でも手術前に化学・放射線療法などの治療で腫瘍を縮小させて手術が行われます。また、食道がんが切除不能で、通過障害を伴い食事ができない場合、または気管(支)食道瘻の症例に対しては、バイパス術が行われることもあります。

鏡視下手術(胸腔鏡、腹腔鏡)

当科では1998年以降患者さんの負担をより軽減する目的で胸部操作を胸腔鏡で、腹部操作を腹腔鏡で行う手術を開始し、多くの方々にこの術式を行ってきました。出血量の減少(100ml以下)、術後在院日数の短縮(中央値11日)に寄与しています。従来の開胸開腹手術と比べた場合、内視鏡手術の利点は
1.手術中の出血量が非常に少ない
2.創が小さく整容面で優れ、術後の痛みが軽く早期の社会復帰が可能である
3.フルハイビジョンモニターの使用で微細な構造まで確認できるため精度の高い手術が可能である
4.術後の腸管の癒着が軽度である
などが挙げられます。

腹臥位胸腔鏡下手術の方法

右胸に5か所、トロッカーと呼ばれる筒を挿入します。そのうちの1つのトロッカーからカメラを挿入して液晶モニターに映像を映し出し、それを見ながらその他のトロッカーから様々な器械類を挿入し食道周囲のリンパ節と病変を含んだ食道を遊離し、残す食道と切除する食道の境界を決め、離断します。

ロボット支援下胸腔鏡下食道切除手術の導入

上記の腹臥位胸腔鏡下手術に関しては、2018年よりロボット手術を導入しております。手術の内容は変わりありませんが、このロボット手術の利点として、次が挙げられます。
①術者がロボットのカメラを操作することで安定した視野を確保できる
②3次元画像情報により立体的に臓器を認識できる
③人間の手ではどうしても発生する手ぶれを補正することができる

腹腔鏡補助下胃管再建術

腹部にも同様にトロッカーを5か所挿入し、腹部のリンパ節の郭清と胃の遊離を行います。その後、腹部に4cmほどの小切開(腫瘍の大きさと胃周囲の脂肪の量に規定されます)を置き、病変を含んだ食道と胃を引出し、胃の入り口付近を含めて食道を切除し、残った胃を管状に形成します。

胃切除後または胃に病変がある場合は結腸や小腸を再建に用います。再建経路としては、胸壁前、胸骨後、胸腔内(後縦隔)経路があり、症例により最も適する経路で再建臓器を挙上します。リンパ節郭清も重要で、通常頸部・胸部・腹部の三領域リンパ節郭清を行います。

頸部食道がんの手術
頸部の食道がんでは頸部食道のみならず通常、咽頭・喉頭の切除も必要なことも多く、耳鼻咽喉科医、形成外科医と共同手術を行います。術後は声を失うことになることもあり、術前・術後の指導、精神的サポートが重要です。頸部食道に限局したがんでは小腸により再建されます。

腹部食道がんの手術
腹腔内の操作のみで切除されることも可能です。下部食道切除に胃全摘が追加されることもあります。

他臓器のがんの合併、根治的化学放射線療法後のサルベージ手術

食道がん患者さんはしばしば咽頭がんや喉頭がん、胃がんなど他臓器のがんを合併しています。また、近年、食道がんに対して、根治目的に化学放射線療法が行われることが多く、その後の遺残、再発に対する治療として手術が行われることもあります。このような他臓器のがん合併例の手術、根治的化学放射線療法後のサルベージ手術は難易度が高く、術後管理も難しいことが知られています。外科、耳鼻咽喉科、形成外科、集中治療等の専門医やメディカルスタッフ(専門看護師、言語聴覚士、理学療法士など)が協力しチーム医療を行うことが極めて重要です。また、1回の大きな手術では侵襲に耐えうることが困難な方に、食道の手術を2回に分けて、腫瘍の切除と再建術を分割して行うことを取り入れることで、根治手術を行う場合もあります。

術後の経過

一般的な術後の経過
手術当日は、安全のため集中治療室(ICU)に入室して全身管理を行います。通常術翌日には一般病棟に戻り歩行開始となります。1週間前後で食事を開始して、2週間前後で退院となります。食道がん手術は、頸部・胸部・腹部を一度に扱うため一般的な他の手術と比べて大きな手術となります。そのため、当科では外科医師・看護師だけではなく、他科の医師・理学療法士・栄養士など多職種にわたるメディカルスタッフと密に連携をとりながら、質の高い周術期管理を行うよう取り組んでいます。

退院後は散歩から始めて、ご自身の体力を考えながら運動、運転、旅行に行くことも可能です。退院後職場へ復帰するのは数週間から1か月くらいかかることが普通です。食道がんの手術後は胃が管状になり、胸の中を持ち上げられていることから、食べ過ぎない、食べてすぐ横にならないなど特有の注意すべきことがあります。

当院では食道がんに対する豊富な治療経験をもとに、病状にあった適切な術式を選択し、周術期管理を綿密に行うことにより安全で確実な外科治療を提供しております。

用語解説

ESD : 内視鏡的粘膜下層剥離術
EMR : 内視鏡的粘膜切除術
バイパス術 : 狭窄や閉塞をきたした経路に対し、直接修復が不可能な場合、人工的に迂回路をつくる手術。
化学放射線療法 : 抗がん剤と放射線を組み合わせて行うがんの治療方法。
チーム医療 : さまざまな医療専門職がチームを編成し、それぞれの専門性を生かしながら共働して行う医療。
周術期管理 : 入院(手術前)-手術-退院(術後の開腹)一連の流れ。