九州大学病院のがん診療

食道がん

化学療法

食道がんの化学療法(薬物療法)には、根治を目指した集学的治療として行われる化学療法と、切除不能進行・再発食道がんに対して行われる化学療法があります。集学的治療とは、がんの種類や進行度に応じて、手術、放射線治療、化学療法などのさまざまな治療法を組み合わせることです。近年、食道がんでは、手術と化学療法、化学療法と放射線治療を組み合わせた集学的治療が多く行われています。

食道がんが切除可能である場合は手術を中心とした治療が最も良好な効果が期待できる治療です。しかし、食道は体の中心部にあり気管、心臓、大動脈などの重要臓器に囲まれているため、食道がんの手術は、開胸、開腹、頚部操作を伴い、患者さんへの負担は大きく、最も難しい手術の一つと言えます。一方で、他の消化器がんと比べると、放射線が比較的効きやすいがんであるという特徴もあります。食道がんに対しては、全身状態、がんの病期に応じて、これらの様々な治療方法を組み合わせた集学的治療を適切に行うことが最も重要と考えられており、当院でも各診療科が連携した治療を実施しています。

術前化学療法・化学放射線療法

食道がんの広がりが臨床病期ⅡやⅢ期で切除術を行う場合には、手術の前に化学療法を行うことで治療成績が改善することが知られており、5-FUとシスプラチンの併用化学療法(CF療法)を2コース実施すること広く行われていました。

近年、この2剤にドセタキセルを追加した3剤併用療法(DCF療法)を術前に3コース行うことでさらに治療成績が向上することが本邦の研究で示されました。しかし、薬剤が増えた分、副作用も強くなることに注意が必要です。術前化学療法を行う場合は、全身状態、臓器機能をもとに適切な薬剤の組み合わせを検討します。

化学放射線療法

食道がんの広がりが食道だけの場合や近くのリンパ節のみに限られている場合は、冒頭に述べたように手術療法による切除が一般的です。しかし、がんが周囲の臓器に広がっている場合や、その他の併存疾患の影響で手術が選択できない場合には、手術の代わりの治療法として化学放射線療法が選択されます。病巣部に対する放射線照射に加え5-FUとシスプラチンを同時に投与する方法が行われています。

また内視鏡的切除の対象でない臨床病期Ⅰ期の食道がんに対しては、化学放射線療法は手術と同等の治療成績が期待できます。臨床病期Ⅱ期や食道がんが隣接する臓器までは広がっていない臨床病期Ⅲ期(T4を除くⅢ期)の場合でも、化学放射線療法は手術に次ぐ治療効果が得られることから、手術困難あるいは手術を希望されないⅡ期、Ⅲ期の患者さんへ化学放射線療法を行うこともあります。

遠隔転移を有する臨床病期Ⅳ期の患者さんでも、食道にあるがんのために食べ物や飲み物が飲み込めないなどの症状が強い場合は化学放射線療法を行うことがあります。がんが縮小すれば食事が摂れるようになり、生活の質の向上も期待されます。

化学療法

食道がんが血液やリンパの流れに乗って肺や肝臓などの臓器や食道から離れた部位のリンパ節に転移している場合は臨床病期ⅣB期となります(食道がん取扱い規約第12版)。この場合には、がんを全て取り除く手術は難しく、放射線照射も広範囲に行うことは困難です。そのため抗がん剤を用いた全身化学療法を行うことが一般的です。現在、食道がんの化学療法で使う薬には細胞障害性抗がん薬(5-FU、シスプラチン、オキサリプラチン、ドセタキセル、パクリタキセル)と免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ、ニボルマブ、イピリムマブ)があり、初回治療ではこれらを組み合わせて治療します。がんの状態や臓器機能、予測される副作用を踏まえて、主治医と患者本人が話し合って治療薬の組み合わせを決定します。がんの化学療法は進歩していますが、まだ十分とは言えずがんの進行を抑えるための新たな治療法が今も研究されています。

このように、当院では、がんの広がりの違いや症状・合併症など、患者さん個人の状態に合わせて最も適切な治療方法を選択していくことが重要と考えています。

当院では、これらの治療法よりもさらに有効な治療法、あるいは副作用などの負担がより少ない治療法を開発する目的で多数の臨床試験を実施しています。臨床試験に参加するには、事前に病状・体調等の審査を通過する必要があり、すべての患者さんが参加できるわけではありませんが、担当医から案内があった場合には、医学の進歩のため協力をご一考いただけますと幸いです。

また当院はがんゲノム医療中核拠点病院として、標準治療が効かなくなった患者さんに対してがん遺伝子パネル検査を行い、がんゲノム医療すなわちがん遺伝子の情報に基づいた個別化医療の研究を進めており、食道がんの患者さんにも参加を頂いております。

用語解説
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
集学的治療 : 外科的治療、化学療法、放射線療法などの複数の治療方法を組み合わせて行うがんの治療法
化学放射線療法 : 抗がん剤と放射線を組み合わせて行うがんの治療方法
病期 : 疾病の経過をその特徴によって区分した時期