九州大学病院のがん診療

肺がん

放射線治療

肺癌に対する治療方針は、非小細胞肺がんと小細胞肺がんで異なりますが、いずれにおいても放射線治療の役割は非常に大きいと考えられています。放射線治療は、リニアックという治療装置を用いて、体の外からX線を照射する「外部照射法」という方法を用いるのが一般的です。どのように照射するか(範囲や方向など)、どの程度照射するか(1回量や回数など)は、治療計画用のCTを撮影後、放射線治療医が、専用の治療計画コンピューターを用いて、治療の目的や腫瘍制御に必要な放射線の量、正常臓器への副作用のリスク等を総合的に勘案して決定します。以下、非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分けて概略を述べます。

非小細胞がん

Ⅰ-Ⅱ期で手術を希望されない方、高齢、心臓や肺の障害や他の合併疾患で手術が困難な方、Ⅲ期で手術困難な方に対しては、がんを治すための「根治的治療」を行います。Ⅰ期では、放射線治療単独で治療を行います。近年、I期には、病巣を多方向からねらい打ちする「体幹部定位放射線治療」(いわゆるピンポイント照射)という方法が非常に有効です。短期間で手術相当の良好な成績が得られています(図1)。当院では、1回12〜13.5グレイ、総線量48〜54グレイ/4回(4-8日間)で治療を行っています。但し、腫瘍の大きさなどにより、1回に照射する量や回数を変更することもあります。Ⅰ期がんでも、腫瘍が大きな気管支、大きな血管、脊髄などの重要な臓器と近い場合には、これらの副作用を考慮し、1回に照射する量を1回2-3グレイ程度に下げて60-70グレイ/20-35回(4-7週間)の治療を行っています。II-III期では、抗がん剤との同時併用で放射線治療を行います。但し、高齢の方や合併症をお持ちのために抗がん剤の併用が困難な方では放射線治療のみで治療を行います。通常は、1日1回2グレイで、60-70グレイ/30-35回(6−7週)の照射を行います。病変の存在する部位に応じて3次元原体照射や強度変調放射線治療という照射方法を使い分け、副作用を可能な限り減らすように努めています(図2)。抗がん剤と放射線治療の同時併用での治療後、それまでの治療の反応によって免疫チェックポイント阻害剤を継続することもあります。

図1

図2

小細胞肺がん

遠隔転移のない限局型の小細胞肺がんには、抗がん剤との併用で放射線治療を行うのが一般的です。照射範囲が比較的小さくて済む場合には、1回1.5グレイ、1日2回、総線量45グレイ/3週間の照射が推奨されています。照射範囲が広い場合には、まず、抗がん剤治療で腫瘍を縮小させた後に放射線治療を行います。上記治療で腫瘍が消失または著しく縮小した患者さんには、脳転移を予防するための予防的な全脳照射(1日1回2.5グレイ、総線量25グレイ/2週間)が推奨されています。

緩和的治療

非小細胞肺がん、小細胞肺がんのいずれにおいても、遠隔転移をもつⅣ期の患者さんには、骨転移や脳転移などによる症状を和らげるために放射線治療を行う場合があります。少数個の転移であれば、症状を取るためだけではなく、転移病巣を制御するための治療として行うこともあります。

用語解説

CT : コンピュータ断層法。身体の横断断層を撮影する特殊なX線装置
定位放射線治療 : 治療用の放射線を多方向から病巣に対して集中し、正常組織の障害を少なくした放射線の治療方法
強度変調放射線治療 : 腫瘍の形状に合わせた線量分布を形成することで、正常組織の被ばく線量をより低減し腫瘍部分に集中的に照射することができる照射方法。
免疫チェックポイント阻害剤 : 免疫療法のひとつ。がん細胞により抑制されていた免疫機能を活性化させる