九州大学病院のがん診療

脳腫瘍

化学療法

脳には、その恒常性を保つため、血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)が存在し、他の癌とは異なる学療法が必要となります。

悪性神経膠腫に対しては、従来ニドラン(ACNU)という点滴の薬が使用されていましたが、2006年にテモゾロミド(TMZ)というカプセルの内服薬が、大規模な臨床試験により有効性を証明されました。当科では、術後に、テモゾロミドもしくはニドランと、放射線療法を併用した初期治療(放射線化学療法)を行っています。また、ニドランの治療だけを行い、放射線治療を行わない場合もあります。治療法の選択は組織診断に加え、当院独自の遺伝子解析から得られた所見を基準にしています(臨床研究の項に詳しく記載していますので、ご参照ください)。

また、悪性神経膠腫については、2013年より血管新生阻害薬であるアバスチン(BEV)が保険承認され、当院でも使用しています。当科での使用経験により、重要な機能が存在するために手術で切除ができなかった腫瘍が残っている症例や、意識障害や言語、運動機能の低下などを来たしている(performanceの低下)症例では、非常に治療効果が高く、平均生存期間が延長していることが証明されました(図5)。このような治療経験を踏まえて、アバスチンを初期治療から使用するかどうかを選択しています。

図5

悪性リンパ腫に対しては、メソトレキセート大量療法を核とした化学療法が標準治療として確立しており、当院血液腫瘍内科と連携して、化学療法での治療のみで行うこともあります。放射線治療も有効ですが、長期的に白質脳症という状態が起きる可能性が高まるため、最近の症例ではまず化学療法だけでの治療を先行させることが多くなっています。

小児悪性脳腫瘍である髄芽腫、胚細胞腫に関しても放射線療法と化学療法が必要となります。髄芽腫に関しては、年齢、摘出度、髄液播種が、その後の経過を決定する重要な因子になります。基本的には全脳全脊髄の放射線療法と白金製剤を用いた化学療法の併用療法を行います。特に乳幼児に対しては、末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法の選択もあり、小児科との連携のもと治療を行っています。胚細胞腫は組織型によりさらに細分化されます。予後良好群である胚腫(ジャーミノーマ)は治療感受性が高く、放射線、化学療法により5年生存率が9割を超えてきています。予後不良群であるヨークサック腫瘍胎児性癌絨毛癌脊髄播種を来たしやすく、全脳全脊髄の放射線照射に化学療法を併用し治療を行っています。奇形腫の成分を含む腫瘍に関しては、治療後の残存部位に外科的摘出術が追加しています。

用語解説

化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
神経膠腫 : 脳実質の神経膠細胞から発生した腫瘍の総称
放射線化学療法 : 放射線と抗がん剤を組み合わせて行うがんの治療方法。
悪性リンパ腫 : リンパ系組織から発生する悪性腫瘍
白質脳症 : 大脳白質と呼ばれる箇所が主に障害されるもの。歩行時のふらつきや、進行すると意識障害がおきる。
髄芽腫 : 小児の小脳に好発する悪性度の高い腫瘍
髄液播種 : 髄液の中にがん細胞が広く存在している状態
ヨークサック腫瘍 : 生殖器に生じる腫瘍のひとつで、胚細胞腫瘍に含まれる
胎児性癌 : 胚細胞腫瘍のひとつで悪性に分類される腫瘍
絨毛癌 : 胚細胞腫瘍のひとつで悪性に分類される腫瘍。
脊髄播種 : 脳脊髄液を介して脊髄に腫瘍病変が生じること。
奇形腫 : 胚細胞腫瘍のひとつで良性に分類される腫瘍