九州大学病院のがん診療

脳腫瘍

放射線治療

悪性腫瘍と一部の良性腫瘍が放射線治療の対象となります。腫瘍の組織型により、放射線治療の効果・役割は大きく異なり、手術や化学療法と組み合わせて行ったり、放射線治療単独で行ったりします。九州大学病院にはTruebeam STx with Novalisradiosurgery systemという最新の治療機器がありますので、定位放射線治療(図6)や強度変調放射線治療などの高精度放射線治療も可能です。

腫瘍の性質や進展形式を考慮して照射範囲を設定し、最適な治療法、線量分割による放射線治療を行います。髄芽腫や脳室上衣腫などのくも膜下腔に広がりやすい腫瘍は全脳(全脊髄)照射を行います。周囲への浸潤傾向の強い高悪性度の神経膠腫では拡大局所照射を、周囲への浸潤傾向が低い髄膜腫や低悪性度の神経膠腫は局所照射を行います。標準的には線量は1日1回、週5回、1回につき1.8〜2Gy(グレイ)、総線量50〜60Gy程度を6週間(1か月半程度)かけて行います。1日の照射時間は2〜3分程度で、その間痛みや熱さを感じることはありません。高齢者の悪性神経膠腫では放射線治療の期間を3週間程度に短縮しても(1回につき2.7Gyの照射を15回)、良好な治療成績が得られることがわかってきました。そのため九州大学では、75歳以上の症例に対しては短期間の放射線治療を行うようにしています。また、他臓器の癌からの脳転移に対しては、数が多い場合は全脳照射を行い、小さく数が少ない場合は定位照射を行っています。(図6)

放射線治療の副作用は大きく急性期有害事象晩期有害事象に分けられます。急性期有害事象としては、照射野に一致した脱毛、頭痛、悪心、嘔吐、めまい、全身倦怠感、中耳炎などを生じることがあります。線量が多い場合、永久脱毛となることもあります。晩期有害事象で最も問題になるものは放射線脳壊死で、壊死を来たした部位に応じた症状を生じますが、重篤なものはまれです。その他、眼球への照射では白内障、角膜炎、網膜障害が、中耳・内耳への照射では聴力低下を認めることがあります。視床下部〜下垂体が照射野内であればホルモン分泌低下を来たすことがあります。

図6(定位放射線治療の例)

用語解説
化学療法 : 化学物質によってがんや細菌その他の病原体を殺すか、その発育を抑制して病気を治療する方法
Truebeam STx with Novalis Radiosurgery system : 高精度放射線治療装置(定位放射線治療、強度変調放射線治療)のこと
定位放射線治療 : 治療用の放射線を多方向から病巣に対して集中し、正常組織の障害を少なくした放射線の治療方法
強度変調放射線治療 : 腫瘍の形状に合わせた線量分布を形成することで、正常組織の被ばく線量をより低減し腫瘍部分に集中的に照射することができる照射方法
高精度放射線治療 : 定位放射線治療、強度変調放射線治療のこと
髄芽腫 : 小児の小脳に好発する悪性度の高い腫瘍
上衣腫 : 脳室を覆う上衣細胞から構成される脳腫瘍。主に脳室周辺に発生する
神経膠腫 : 脳実質の神経膠細胞から発生した腫瘍の総称
髄膜腫 : 髄膜から発生し、脳を圧迫しながら形成する良性腫瘍
急性期有害事象 : 放射線治療期間中および照射終了1ヶ月程度まに発生してくる障害
晩期有害事象 : 治療が終了後約3か月以降に発生してくる障害
放射線脳壊死 : 放射線によって脳細胞が死滅すること
角膜炎 : 角膜におこる炎症の総称